俺、池田和樹は、48歳にして大学教授という、傍から見れば堅実で落ち着いた人生を送っている。古びた書物や論文に囲まれ、知の深淵を覗き込む日々は、俺にとって何よりも幸福な時間だった。だが、人間には理性だけでは抑えきれない本能というものが存在する。その本能が、まさかこんな形で、それもこんなにも鮮烈に目を覚ますとは、夢にも思っていなかった。 研究室に一人、窓から差し込む夕暮れの光が徐々に赤みを帯びていく。そんな静謐な時間が俺の日常だった。しかし、人の心とは不思議なもので、充足しているはずの日々の中にも、名状しがた ...