俺の指が、彼女の体を探求するまで
マッチングアプリの画面をスワイプする指が止まった。 紗良さん。32歳、管理栄養士。 プロフィール写真の、飾らない笑顔と、ヘルシーな料理の写真に惹きつけられた。 俺は26歳でスポーツジム勤務。体づくりへの意識が高い女性は珍しくないが、管理栄養士という専門性は目を引いた。 すぐに「いいね!」を送った。数時間後、マッチングの通知が届く。胸が高鳴ったのを覚えている。 最初のメッセージは、お互いの食生活やトレーニングについてだった。紗良さんの知識は深く、俺が漠然とやっていた体づくりに明確な指針を与えてくれる。 「佐 ...
蜜が滴る、知の深淵 前編
俺、池田和樹は、48歳にして大学教授という、傍から見れば堅実で落ち着いた人生を送っている。古びた書物や論文に囲まれ、知の深淵を覗き込む日々は、俺にとって何よりも幸福な時間だった。だが、人間には理性だけでは抑えきれない本能というものが存在する。その本能が、まさかこんな形で、それもこんなにも鮮烈に目を覚ますとは、夢にも思っていなかった。 研究室に一人、窓から差し込む夕暮れの光が徐々に赤みを帯びていく。そんな静謐な時間が俺の日常だった。しかし、人の心とは不思議なもので、充足しているはずの日々の中にも、名状しがた ...
アフタヌーンティーのその後に
マッチングアプリの画面をスクロールする指が止まった。 田村麻衣子、25歳。 OLとある彼女のプロフィールは、驚くほど堅実な将来設計と、地に足のついた金銭感覚について真面目に綴られていた。派手さはないけれど、そこには確かな知性と、どこか芯の強さを感じさせる魅力があった。公認会計士として、僕自身もまた将来に対する堅実さを重視するタイプだから、彼女の考え方には強く惹かれるものがあった。 メッセージのやり取りが始まった最初の頃は、まるでビジネスメールのように丁寧な言葉遣いで、お互いの仕事や人生設計について真面目に ...
画面越しの君から、現実(リアル)の君へ
「健二さん!マッチングしました!」 スマホ画面に表示されたその文字を見た瞬間、脳みそを直接撫でられたような、むず痒い感覚が走った。 金子莉奈、24歳、アニメーター。アイコンに写る彼女は、俺のような居酒屋の兄ちゃんとは無縁そうな、柔らかい雰囲気の女性だった。なんで、俺なんかに? 半信半疑ながらも、メッセージを開く。 『はじめまして!マッチングありがとうございます!』 定型文とはいえ、その向こうにいるであろう彼女の笑顔を想像して、口元が緩む。太田健二、28歳、居酒屋店員。俺は迷わずメッセージを返した。 『こち ...
指先が知る欲望の設計図
マッチングアプリを開いた指が、美穂のプロフィールで止まった。 井口美穂、30歳、インテリアコーディネーター。 写真に写る彼女の纏う柔らかい空気感と、そこに添えられた「空間をデザインすることに魅せられています」という言葉。建築家である俺にとって、それは抗いがたい引力だった。 メッセージのやり取りは、驚くほど滑らかだった。 好きな建築物、影響を受けたデザイナー、空間に対する考え方。互いの言葉の端々に宿る感性は、まるで精密に組み上げられた美しいディテールのように響き合った。 「拓也さんの、その空間を切り取る視点 ...
言葉と肌の交歓
マッチングアプリの通知音が、静かな書斎に響いた。 画面には「今井薫」という名前が表示されている。プロフィールには「編集者。面白い才能を探しています」とだけ書かれていた。 僕、浅野哲也、34歳。 小説家として創作活動のインスピレーションを求めてこのサイトに登録した。彼女からのメッセージは、僕の最新作に対する鋭い批評だった。 「『黄昏の影』のラスト、もう一歩踏み込めたはずです。浅野さんはもっと大胆になれる。」 その言葉に、僕は思わず笑った。この女、ただ者じゃない。 ─── メッセージのやり取りは、すぐに文学論 ...
夜を売る君と、純情な僕
「人生経験、か……」 スマホの画面に映る、歳の離れた女性の顔写真を眺めながら、俺は一人ごちた。 荻原悠馬、二十歳。都内の大学に通う、ごく普通の大学生だ。サークルとバイト、講義とレポート。それなりに忙しくはしているけれど、どこか物足りなさを感じていた。満員電車に揺られ、無機質なビル群を見上げるとき、ふと「このままでいいのか?」という漠然とした不安に駆られる。何か、日常を突き破るような刺激が欲しかった。 そんな時、ふと目にしたのが、巷で噂のマッチングアプリの広告だった。「新しい自分に出会える」「運命の相手が見 ...
デジタルと肌のあいだ
デジタルと肌のあいだ フリーランスエンジニア、黒田純平、22歳。 モニターの光だけが頼りの生活は、正直、味気なかった。コードを打ち込む指先だけが、唯一世界と繋がっている感覚。そんな俺が、まさか「彼女」と出会うなんて、夢にも思わなかった。いや、「出会ってしまった」と言うべきか。 きっかけは、巷で噂の出会い系アプリ。 友人に勧められるがままに登録したものの、どうせ冷やかしだろうと、期待なんてしていなかった。プロフィールの写真も、数年前に適当に撮った証明写真の切れ端。なのに、マッチングした通知が表示された時、心 ...
体温(ぬくもり)
人生の後半に差し掛かり、まさかこんな形で新しい出会いがあるなんて、数ヶ月前までは考えもしなかった。 外食チェーンのマネージャーとして、時間に追われる毎日。気がつけば、家庭には僕一人。子供たちは独立し、賑やかだった家はひっそりとしていた。 そんな時、ふと目にしたのが「人生を共に歩むパートナーを見つけませんか?」という広告だった。 正直、最初は半信半疑だったけど、このまま一人で老いていくのは寂しい、という思いが勝った。軽い気持ちで登録したアプリ。プロフィール写真に映る自分は、少しばかり疲れて見えたかもしれない ...
昼下がりの密会、止められない鼓動
昼下がりの密会、止められない鼓動 星野健一は、スマートフォンの画面に目を落とした。 夜中、高層ビルのオフィスで一人残業する光景は日常だ。外資系企業のマネージャーとして働く身には、ワークライフバランスなど絵に描いた餅。当然、まっとうな出会いなんてあるはずもなかった。 そんな俺が、藁にもすがる思いで始めたのが、このマッチングアプリだった。 スワイプを繰り返し、流れていく無数の顔写真とプロフィールを追う。どこか醒めた、しかし抗えない期待感が胸の奥にあった。仕事で埋め尽くされた日常に、ほんの一筋でも光が差さないか ...