選択肢の迷宮で掴む真実の愛 中編
悟さんとの二度目のデートは、彼の提案で、彼が会員となっている都心の高級ゴルフ場だった。私は普段からゴルフをするが、彼のような経済的に成功した男性とのラウンドは初めてだった。彼の車でゴルフ場に向かう道中、私は彼の隣で、どこか非日常的な高揚感に包まれていた。 「佐藤さん、ゴルフはお好きですか?」 彼の問いかけに、私は笑顔で答えた。 「ええ、大好きです。でも、こんなに素晴らしいゴルフ場は初めてで、少し緊張しています。」 「はは、大丈夫ですよ。僕も今日は、佐藤さんと一緒にゴルフができるのが楽しみでね。気楽にいきま ...
選択肢の迷宮で掴む真実の愛 前編
「カチッ」 深夜、スマートフォンの画面が淡く光を放つ。 鈴木悟、50歳。中小企業の社長という肩書きは、世間的には成功者なのだろう。だが、この広い自宅で一人、静かに酒を傾ける夜は、言いようのない空虚感を伴う。そんな俺が今、開いているのは、流行りのマッチングアプリだ。指先一つで、新しい出会いが手に入る時代。癒やしを求めている俺にとって、これはまさに救世主かもしれない。 プロフィールを作成する。趣味はゴルフ、海外旅行。写真は、少し若く見えるように加工した、笑顔の一枚を選んだ。正直なところ、出会いに対してそこまで ...
指先がほどく、年上の鎖
「林田梓さん、ですよね?」 声とともに振り返った彼女は、メッセージのやり取りから想像していた以上に、洗練された雰囲気を纏っていた。34歳。ファッションバイヤーという肩書きが、その佇まいの全てを物語っているかのようだ。 俺、宮田悠斗、26歳。アパレル企画の仕事柄、流行の最先端に触れる機会は多いけれど、目の前の彼女からは一歩も二歩も先を行くオーラを感じた。 きっかけは、何気なく始めたマッチングアプリ。共通の趣味嗜好を設定できる機能で、「ファッション」を選んだら、すぐに彼女から「いいね!」が届いた。メッセージの ...
交差する運命の糸 後編
俺たちは、人通りの少ない裏道を、あてもなく歩いた。夕暮れの空が、オレンジ色に染まっていく。街灯が、ちらほらと点灯し始め、柔らかな光が、俺たちの足元を照らす。 「大地くんは、どうして、私に惹かれたの?」 亜希子が、ふと、そんな問いを投げかけた。その言葉に、俺は、少し照れくさくなった。 「最初からだ。初めて会った時から、あなたのことが、忘れられなかった」 俺は、正直な気持ちを伝えた。亜希子は、俺の言葉に、小さく微笑んだ。 「そう…私、あなたのこと、可愛い弟みたいに思ってたのに…」 亜希子の言葉に、俺の胸に、少 ...
交差する運命の糸 中編
沈黙が、重くのしかかる。数秒が、永遠にも感じられた。カフェのBGMが、遠くで小さく流れているのが聞こえる。他の客の話し声も、耳には入ってこない。ただ、彼女の、そして俺の、心臓の音が、やけに大きく聞こえるだけだった。 やがて、彼女の細い指が、ゆっくりと俺の腕に絡みつくのを感じた。その瞬間、俺の全身に、甘く痺れるような感覚が走った。彼女の指が、俺の腕を、そっと撫でる。まるで、俺の存在を確かめるかのように。 「…大地くん…」 彼女の声が、震えながらも、俺の耳に届いた。その声には、先ほどの戸惑いとは違う、何か、諦 ...
交差する運命の糸 前編
蒸し暑い夏の盛り、蝉の鳴き声が降り注ぐ午後だった。俺、河野大地は、スマホの画面に釘付けになっていた。指が震える。心臓の音がうるさいくらいに鼓動している。俺の目の前に表示されているのは、とある出会い系サイトのプロフィール画面。そこに写っている女性の顔は、俺がずっと心の中で秘めていた、美しくて手の届かない人――池田亜希子、俺の叔母だった。 あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。亜希子が俺の実家に遊びに来たのは、確か俺がまだ小学校に上がる前だったか。庭でセミの抜け殻を探していた俺を見つけ、彼女は 「大地くん、 ...
ネームに綴る恋 後編
唇が触れ合った瞬間、世界が止まったかのような錯覚に陥った。柔らかく、甘い感触。それは、今まで味わったことのない、特別な感覚だった。俺は、もっと深く、もっと強く、玲奈を求めた。 玲奈の細い腕が、俺の首に回される。そして、彼女の体が、俺の体に密着するように、さらに近づいてきた。互いの鼓動が、一つに重なっていくのがわかる。 「ん……」 玲奈の吐息が、俺の耳元をくすぐる。それは、俺の理性を完全に吹き飛ばす、甘い誘惑だった。俺は、玲奈の背中に手を回し、彼女の体をさらに引き寄せた。玲奈の柔らかい体が、俺の体に吸い付く ...
ネームに綴る恋 前編
俺、村上隆史、30歳。漫画家アシスタントをしている。ペンを握る手は、夢を追い続けてきた証だ。だけど、現実は厳しい。来る日も来る日も締め切りに追われ、自分の漫画を描く時間は、日に日に削られていく。そんな俺が、まさか、マッチングアプリに登録するとは、夢にも思わなかった。いや、正直に言えば、漫画だけが世界の全てじゃないと、どこかで現実逃避を求めていたのかもしれない。 「Ting!」 スマホの通知音に、思わず肩が跳ねた。画面には「佐藤玲奈さんがあなたに『いいね!』しましたの文字。玲奈、25歳、専門学校生(漫画学科 ...
オンラインの糸、結ぶ愛の音
吐息が混じり合う。恵の柔らかな唇が、俺の唇を優しく塞ぐ。熱を帯びた手が、俺の頬を包み込むように滑り、そっと髪を撫でた。 「康介さん……」 その甘い声が、鼓膜を震わせる。指先が背中をなぞり、薄いシャツ越しにも恵の体温が伝わってくる。全身が痺れるような感覚と、内側から込み上げてくる熱。ああ、なんて心地いいんだろう。この温かさ、この柔らかさ。初めて会った日の、あのぎこちないカフェでの会話からは想像もできなかった、まさかこんな日が来るなんて……。 あの時は、まだ見ぬ相手への期待と不安が入り混じっていた。マッチング ...
アプリが出会わせた、僕の、大切な人
俺、橋本哲也、52歳。工場長のこの手を、まさか今さら、誰かとの新しい「繋がり」のために使う日が来るなんて、数ヶ月前まで想像もしていなかった。ガコン、ガコン、と鳴り響く機械の音に囲まれて半世紀。汗と油にまみれた日々の中に、ふと訪れた静寂があった。子供たちは独立し、家内は数年前に旅立った。定年まであと数年。このまま一人で、淡々と生きていくのだろうか。そんな漠然とした不安を抱えていた時に、昔馴染みの友人が笑いながら言ったんだ。 「テツヤ、お前もアプリってやつ、やってみろよ。面白い出会いがあるかもぜ?」 最初は抵 ...