体験談

アプリ越しのノスタルジア

「愛ちゃん? 本当に愛ちゃんだ!」

目の前に立つ彼女を見て、俺は思わず声を上げた。スマホの画面越しに何度も見ていた顔が、今、夕暮れの公園で、光と影の中に確かにあった。
待ち合わせのベンチから立ち上がった橋本愛は、メッセージのやり取りで想像していた通りの、いや、それ以上の、屈託のない笑顔を俺に向けてくれた。

「悟さん! 声かけられなかったらどうしようかと思いましたよ〜」

少しはにかんだようなその声も、メッセージで読んでいた通りの明るさだ。

俺たちがマッチングしたのは、お互いに同じチェーンの居酒屋でバイト経験があったから。
メッセージでは、シフトの裏話や、共通の知り合いの「あの人、元気してるかな?」なんて話で、驚くほど盛り上がった。
まるで学生時代の延長のような、あの頃の空気感が、スマホの小さな画面から立ち上ってくるような感覚だった。

初めて会う場所にこの公園を選んだのは、他でもない、俺たちが昔バイトしていた店舗のすぐ近くだったからだ。
遊具の軋む音、遠くで聞こえる子供たちの声。ああ、この感じ。本当に懐かしい。

「いやー、メッセージでも楽しかったけど、こうして実際に会うともっと楽しいな」

俺は素直な気持ちを口にした。愛ちゃんは「私もです!」と満面の笑みで応じる。

「悟さんのメッセージ、なんか落ち着くんですよね。あの頃のこと、色々思い出して。大変でしたけど、楽しかったですよね、あのバイト」

「大変だったけど、楽しかった、まさにそれ! シフトの融通利かなすぎて、テスト前なのに終電逃したりさ」

「あー! ありましたね! 駅まで自転車かっ飛ばしてました、私!」

二人して、当時の「あるある」で笑い合った。他愛もない話なのに、愛ちゃんの楽しそうな笑い声を聞いていると、俺まで釣られて声を出して笑ってしまう。

少しずつ日が傾き、公園の向かいにある居酒屋の看板に明かりが灯り始める。
あの店か。俺と愛ちゃんが、同じユニフォームを着て、汗を流した場所。

「なんか、不思議な感じですね。ここでバイトしてた時は、まさか悟さんとこうして会うなんて思ってもみなかったのに」

愛ちゃんが、少し寂しそうに、でもどこか嬉しそうに呟いた。
その横顔が、夕日に照らされて綺麗で、思わず見入ってしまった。

「俺もだよ。愛ちゃんがマッチングアプリやってるの知って、正直びっくりした。でも、それ以上に嬉しかった」

俺は少しだけ声のトーンを落として言った。愛ちゃんの視線が、ゆっくりと俺の方に向く。
その瞳に、オレンジ色の光が映り込んでいる。

「へぇ、嬉しかったんですか?」

少し意地悪そうな、でも期待しているような、そんな響きを含んだ声だった。
俺はごくりと唾を飲み込む。

「ああ、嬉しかった。メッセージしてても、声出して笑っちゃうくらい楽しかったし。今日だって…」

今日の楽しさをどう伝えようか迷っていると、愛ちゃんがふっと視線を逸らした。
そして、少しだけ間を置いてから、小さな声で言った。

「私、悟さんともっと話したいな」

その言葉が、ストンと俺の中に落ちてきた。
公園のベンチに並んで座り、他愛もない話で笑い合った時間。
あの頃の懐かしさと、目の前にいる愛ちゃんへの新鮮な感情。
それらが混ざり合って、俺の心臓がドクンと鳴った。

「…俺もだよ、愛ちゃん」

気づけば、俺は愛ちゃんの手にそっと触れていた。
彼女の指先が、ほんの少しだけ震えたような気がしたけれど、振り払われることはなかった。
夕暮れの公園に、優しい風が吹いていく。
俺たちの間にある空気が、ゆっくりと、でも確かに変わっていくのを感じた。

(…このまま、この時間を止めたい)

そんな風に思ったのは、きっと俺だけじゃないだろう。
愛ちゃんの少しだけ上気した横顔が、そう語っているように見えたから。

初めて会ったのに、初めてじゃないみたい。
マッチングアプリで繋がって、メッセージで心を通わせて。
そして今、目の前で笑っている愛ちゃんの手の温かさ。

あの頃の甘酸っぱい記憶と、これから始まる何かへの予感。
その両方が、俺の胸の中で渦巻いていた。

「ねぇ、悟さん」

愛ちゃんが、潤んだ瞳で俺を見つめた。
その視線の熱さに、俺は何も言えなくなった。
ただ、目の前の愛ちゃんが、こんなにも近くにいるという事実だけが、鮮明に心に刻まれていく。

「…愛ちゃん」

俺たちの指先が、自然ともつれ合った。

公園の街灯が灯り始め、ぼんやりと周囲を照らす。
その光の中、俺たちはゆっくりと顔を近づけていった。
遠くで車の走る音。近くで虫の鳴く声。それだけが、この世界の音だった。

そして、俺たちの唇が、そっと重なった。

柔らかくて、温かくて。少しだけ、塩っぱい味がしたような気がした。
夕暮れの公園で、俺たちの新しい物語が、始まった。

公園でのキスから、俺と愛ちゃんの関係は急速に変化した。

あの夜、俺たちはまるで引き寄せられるように、近くにあったホテルへ向かった。
学生時代の延長のようなノリ、懐かしさ、そして初めて触れ合った時の電流のような感覚。
それらが混ざり合って、理性よりも本能が優位に立った結果だったと思う。

初めて結ばれた夜、愛ちゃんの体は驚くほど熱かった。
肌と肌が触れ合うたびに、まるで溶け合うような甘い痺れが全身を駆け巡る。
彼女の吐息が耳にかかるたび、俺の体はさらに熱を帯びていく。

「ん… さとるさん…」

掠れた声で俺の名前を呼ぶ愛ちゃんの声に、俺はもう止まれなかった。
普段の明るく屈託のない愛ちゃんからは想像もできない、艶っぽい声。
その声を聞くたびに、俺の中の何かが解き放たれるのを感じた。

翌朝、少し気まずさと、それを上回る充実感の中で目を覚ました。
隣で眠る愛ちゃんの寝顔は、公園で見た時とは違う、無防備な幼さを宿していた。

「…愛ちゃん」

思わず名前を呼ぶと、愛ちゃんはゆっくりと瞼を開けた。
目が合った瞬間、少し顔を赤らめて

「おはようございます…」

と小さく呟いた。

あの夜は、お互いに「軽い気持ち」だったのかもしれない。
でも、一夜を共にしたことで、俺たちの間には物理的な距離以上に、ぐっと心理的な距離が縮まったのを感じた。

それからも、俺たちは頻繁に会うようになった。
平日の夜、仕事が終わってから愛ちゃんの大学の近くで待ち合わせたり、週末は一日一緒に過ごしたり。
公園での初対面から始まった関係は、デートを重ねるごとに、その色合いを変えていった。

二回目のデートは、少し落ち着いた雰囲気のバーを選んだ。
薄暗い照明の中、グラスを傾けながら話す愛ちゃんは、公園で会った時とはまた違う魅力があった。
昼間は太陽の下で眩しい笑顔を見せる彼女が、夜の帳の中で少し翳りを帯びる。
その儚さのようなものが、俺の心を締め付けた。

「ねぇ、さとるさんって、バイトリーダーやってて大変だったこととかあります?」

愛ちゃんが、俺の目を見て尋ねた。
その真剣な眼差しに、俺は少し戸惑う。いつもは笑ってばかりなのに。

「んー… 色々あったけど、でも、バイトの子たちが頼ってくれた時は嬉しかったかな。あと、愛ちゃんみたいに、一緒に頑張れる仲間がいたから、乗り越えられたことも多いよ」

そう言うと、愛ちゃんはふっと柔らかく微笑んだ。

「そっか… 私も、悟さんみたいな先輩がいてくれたら、もっとバイト楽しかっただろうなぁ」

その言葉に、俺の胸がキュンとなった。

もし、本当に同じ時期に同じ店舗で働いていたら。
どんな風に愛ちゃんと接していただろう。

そんなことを考えると、出会いのきっかけがマッチングアプリだったことが、運命のように思えてきた。

デートを重ねるたびに、俺たちは互いの内面に触れていった。

バイトの話だけじゃなく、家族のこと、将来のこと、悩みや不安。
愛ちゃんが自分の弱い部分を見せてくれるたびに、俺の中の「守ってあげたい」という気持ちが強くなっていくのを感じた。

三回目のデートは、愛ちゃんの希望で水族館に行った。
大きな水槽の中を悠然と泳ぐ魚たちを、愛ちゃんは目を輝かせて見ていた。
その無邪気な横顔を見ているだけで、俺の心は温かくなった。

クラゲの展示コーナー。
幻想的な青い光の中で、ゆらゆらと漂うクラゲたち。

愛ちゃんが

「わぁ、綺麗…」

と呟きながら、俺の腕にそっと触れてきた。
その指先から伝わる体温が、俺の心臓をドキドキさせる。

「ねぇ、さとるさん。クラゲって、自分では何も決められないらしいですよ。ただ、波に揺られて漂うだけなんだって」

「へぇ、そうなんだ」

「なんか、ちょっと切ないですよね。でも、それでも一生懸命生きてるのかな」

愛ちゃんは、クラゲを見つめながら、どこか遠い目をした。
その横顔に、俺は思わず手を伸ばしそうになる。

「愛ちゃんは、自分で色々決めたい方?」

俺の問いに、愛ちゃんは少し考えてから答えた。

「うーん… どうだろう。もちろん自分で決めたいこともありますけど、たまに、誰かに導いてほしいなって思うこともあります。特に、将来のこととか… 不安になる時があって」

そう言って、愛ちゃんは少しだけ眉を寄せた。
その表情に、俺はたまらず彼女の肩を抱き寄せた。

「大丈夫だよ。一人で抱え込まなくていい。俺がいるから」

愛ちゃんの体が、一瞬だけ強ばったのが分かった。

でも、すぐに俺の腕の中にすっと収まってきた。
柔らかな髪が俺の頬に触れる。水槽の青い光が、俺たち二人を優しく包み込んでいた。

この腕の中にいる愛ちゃんは、初めて会った夜の、あの無防備な姿とは違っていた。
それは、信頼と、少しの甘えが混ざり合った、愛しい重みだった。
俺の胸に顔を埋める愛ちゃんの体温が、じんわりと俺の心に染み渡る。

何度か体を重ねるうちに、単なる「軽い気持ち」では片付けられない感情が、俺の中に芽生えていることに気づいた。
愛ちゃんの笑顔を見たい。愛ちゃんの声を聞きたい。愛ちゃんの隣にいたい。

それは、紛れもない「好き」という感情だった。

ある日の夜、愛ちゃんの部屋で過ごしていた時のことだ。
シャワーを浴び終えた愛ちゃんが、少し濡れた髪のままで俺の傍に来た。
清潔な石鹸の香りが、ふわりと漂う。

「ね、さとるさん。髪、乾かしてくれませんか?」

愛ちゃんは、上目遣いで俺を見上げた。
その仕草に、俺の体は一瞬で熱くなった。

ドライヤーの温かい風が、愛ちゃんの柔らかな髪を揺らす。
俺は、ブラシを使って、愛ちゃんの髪を優しく梳かしていく。
さらさらとした髪の感触が、指先から伝わってくる。

鏡越しに映る愛ちゃんの顔が、少しずつ赤くなっていくのが見えた。
俺も、自分の顔が熱くなっているのを感じる。

「…さとるさんの手、大きいですね」

愛ちゃんが、小さな声で呟いた。

「そう?」

「うん。なんか、安心する」

その言葉に、俺は思わずドライヤーのスイッチを切った。
静寂の中で、愛ちゃんの呼吸の音だけが聞こえる。

「愛ちゃん…」

俺は、愛ちゃんの肩にそっと手を置いた。
愛ちゃんがゆっくりと振り返る。至近距離で見つめ合う俺たちの間に、甘い緊張感が走った。

「ねぇ、さとるさん…」

愛ちゃんの声が、わずかに震えていた。
その瞳には、初めて会った時のような輝きと、それ以上の情熱が宿っている。

俺は、もう何も言えなかった。
言葉はいらなかった。ただ、愛ちゃんを求める気持ちが、俺の体を突き動かしていた。

髪を乾かしたばかりの、熱を帯びた愛ちゃんの肌。
その滑らかな感触が、俺の指先に伝わる。

俺たちの関係は、もう「軽い気持ち」で始まったあの夜とは違う場所に来ていた。
それは、互いの心と体が、強く惹かれ合っているという確かな手応えだった。

俺は、愛ちゃんをそっと抱き上げた。
愛ちゃんの腕が、俺の首に回される。
二人の体温が、混ざり合って、さらに熱くなる。

(愛ちゃん…)

心の声が、体を通して伝わるように。俺は愛ちゃんを抱きしめる腕に力を込めた。

今夜、俺たちは、ただ体を重ねるだけじゃない。
心も、全てを、一つにするんだ。

部屋の明かりを消した。

窓の外の月明かりだけが、俺たちの部屋を、そして重なり合う二つの影を、静かに照らしていた。

あの夜、愛ちゃんの部屋で髪を乾かしていた時のことだ。
ドライヤーの熱とは違う、別の熱が俺たちの間に生まれていた。
愛ちゃんの「安心する」という言葉が、俺の心臓を直接掴んだような感覚だった。

ドライヤーを止め、静寂の中で見つめ合った時、愛ちゃんの瞳の中に映る俺は、もう初めて会った時の「バイト仲間だった人」ではなかった。
そこには、俺と同じくらい、いや、それ以上の熱を帯びた感情が見えた気がした。

「ねぇ、さとるさん…」

愛ちゃんの声が震えていた。
その震えが、俺の体にも伝播してくる。
指先が触れる愛ちゃんの肌は、髪を乾かしたばかりでほんのり温かい。
その温かさが、俺の中の情熱に火をつけた。

理性が吹き飛ぶ。ただ、目の前の愛ちゃんを求める気持ちだけが、俺の全身を支配した。
俺は愛ちゃんをそっと抱き上げた。思っていたよりもずっと軽いその体を、しっかりと腕の中に抱き込む。
愛ちゃんの腕が、自然と俺の首に回された。

柔らかな感触。甘い石鹸の香り。
そして、高鳴るお互いの心臓の音だけが、この瞬間の全てだった。
愛ちゃんの耳元に顔を寄せ、小さく名前を呼ぶ。

「…愛ちゃん」

愛ちゃんの体から、フッと力が抜けるのを感じた。
俺の腕の中で、彼女が身を委ねてくれたことが、何よりも嬉しかった。
俺たちの体温が、重なり合って、さらに熱を帯びていく。

ベッドに愛ちゃんを寝かせると、愛ちゃんは少しだけ恥ずかしそうに目を伏せた。
その仕草が、たまらなく愛おしい。俺は、愛ちゃんの頬に優しく触れた。吸い付くように滑らかな肌。

「…きれいだよ、愛ちゃん」

そう言うと、愛ちゃんはゆっくりと俺の目を見つめ返した。その瞳は、潤んでいて、俺の姿だけを映していた。

「さとるさん…」

再び俺の名前を呼ぶその声は、もう震えていなかった。
決意のような、そして期待のような、そんな響きを含んでいた。

ゆっくりと、俺は愛ちゃんの体に覆いかぶさる。
肌と肌が触れ合う感触は、何度経験しても新鮮で、そして魂を揺さぶられる。
愛ちゃんの柔らかな唇が、俺の唇を求めに来る。深まるキス。互いの息遣いが熱を帯びて混じり合う。

愛ちゃんの指先が、俺の髪を優しく撫でる。
その一つ一つの仕草が、俺の中の愛しさを募らせた。
彼女の体は、触れる場所全てが敏感に反応し、甘い声や吐息となって俺に返ってくる。

「んっ… さとるさん…」

愛ちゃんの声が、部屋の中に響く。
それは苦痛ではなく、快感に喘ぐ声だ。
その声を聞くたびに、俺は愛ちゃんをもっと深く感じたいと思った。

かつて、軽い気持ちで体を重ねた時とは違う。
そこには、メッセージのやり取りで育まれた信頼、デートを重ねる中で見つけた愛ちゃんの弱さ、そしてそれを守りたいという俺の気持ち、その全てが込められていた。

愛ちゃんの白い肌に触れるたびに、俺の指先は熱くなり、体が疼いた。
彼女の柔らかな曲線、一つ一つの感触が、俺の理性を麻痺させる。

「愛ちゃん… 好きだ…」

俺は、抑えきれない想いを声に出した。
愛ちゃんの動きが、ピタリと止まる。
そして、俺の背中に回された愛ちゃんの腕が、ぎゅっと力を込めてきた。

「…私も… さとるさん、好き…」

震える声で、愛ちゃんは答えた。
その言葉を聞いた瞬間、俺の体中に電気が走ったような衝撃が走った。
それは、初めて愛ちゃんの手に触れた時や、キスをした時の比ではなかった。魂が震えるような感覚。

愛ちゃんの「好き」という言葉が、俺の中の全てを解き固めた。
もう、迷いはない。これは、「軽い気持ち」なんかじゃない。紛れもない、本物の感情だ。

俺は、愛ちゃんの体の中に深く沈み込んでいく。
一つになる瞬間。愛ちゃんの小さな吐息が、俺の首筋にかかる。
全身が熱い。愛おしい。

(ああ… 愛ちゃん…)

心の底から、愛しいと思った。この体の繋がりは、単なる肉体的な快感だけじゃない。
それは、心と心が溶け合うような、究極の一体感だった。

愛ちゃんの動きに合わせて、俺も体を動かす。
二人の呼吸が乱れ、喘ぎ声だけが部屋に響く。
窓の外では、月が静かに輝いている。

汗ばんだ肌。高鳴る心臓。
そして、離れがたい温もり。
愛ちゃんの全てが、俺を狂わせるほどに愛おしい。

「さとるさん… くるっ…」

愛ちゃんの声が、切羽詰まったものになる。
俺も、もう限界だった。最後の力を振り絞るように、愛ちゃんの体を抱きしめた。

弾けるような快感。愛ちゃんの震える体が、俺の腕の中でさらに小さくなるのを感じる。
俺も、愛ちゃんと共に、甘い奔流に飲み込まれた。

しばらくの間、俺たちはただ、寄り添って呼吸を整えていた。
愛ちゃんの体の温かさが、俺の体にじんわりと伝わってくる。

「ねぇ… さとるさん…」

愛ちゃんが、俺の胸に顔を埋めたまま呟いた。

「ん?」

「私たち… これから、どうなるんだろうね」

少し不安そうな、でも期待を含んだ声だった。
俺は、愛ちゃんの髪を優しく撫でる。

「どうなりたい? 愛ちゃんは」

俺の問いに、愛ちゃんは顔を上げて、俺の目を見つめた。
その瞳には、もう迷いはなかった。

「…さとるさんの隣にいたい」

その言葉が、俺の心に響く。俺も、愛ちゃんの隣にいたい。この温もりを、ずっと感じていたい。

「俺もだよ、愛ちゃん。俺も、愛ちゃんの隣にいたい」

そう言って、俺は愛ちゃんをもう一度抱きしめた。
今度は、情熱だけじゃない。これからの未来を共に歩んでいきたいという、強い決意を込めて。

窓の外には、夜明け前の、うっすらと明るくなり始めた空が見えていた。
新しい一日が始まる。そして、俺たちの、本当の恋が、ここから始まるんだ。この腕の中の愛ちゃんと共に。

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