【軌跡】

甘く疼く傷痕 その2

第3章:玩具としての日常、芽生えた暗い野心

それから数日間、俺は継母の顔をまともに見ることができなかった。

顔を合わせればあの夜の光景が
フラッシュバックし、
彼女の目が俺を捉えるたびに、身体が強張り心臓が激しく脈打つのを感じた。

さらに、義姉たちもあの夜以降、俺に妙な視線を送ってくる。

特に長女の未菜は、獲物を品定めするような冷徹な目で俺を見てくるので、ゾッとした。

それから俺は、学校から帰ると自室に閉じこもるようになった。

夕食も親父がいない時は適当に済ませ、自分の部屋で一人で食べた。

何を口にしても砂を噛むような味しかしない…。

そんなある日、喉が渇いてキッチンにお茶を取りに行った時のことだ。

リビングから、継母と義姉たちの楽しげな話し声が聞こえてきた。

俺は気配を消し、キッチンの入り口から様子を伺った。

「修太のことだけどさ……あの子、あんなに子供っぽい顔して、身体の方はもうすっかり一人前なのよ」

継母の弾んだ声に、俺の心臓は跳ね上がった。

「もう、あんなに激しいなんて思わなかったわ。あたし、あの子にハマっちゃいそう」

その言葉に、俺は耳を疑った。

あの夜の出来事を、彼女は義姉たちに面白おかしく話しているのか…?

「えー、ママだけズルい! あたしたちも仲間に入れてよ」

「じゃあ、力ずくで奪っちゃえばいいじゃない」

三人の笑い声が、俺の耳に鋭く突き刺さった。

俺を何だと思っているんだ!?
玩具か?それともただの道具か?

深い絶望が胸に広がったが、今の俺にはどうすることもできない。
唇を噛み締め、この屈辱に耐えるしかなかった。

夏休みに入り、家にいる時間が増えたことが更なる苦痛となった。

いつ彼女たちに襲われるか分からない恐怖が、常に俺を苛む。

継母は隙あらば俺の部屋に近づき、ドアノブを回そうとする。
その度に俺は息を殺してやり過ごした。

ある日の昼下がり、義姉の未菜がノックもせずに部屋に入ってきた。

「ねぇ、修太。部屋にばかりいないで、リビングに来れば?」

彼女は俺のベッドに腰掛け、舐めるような視線を俺に這わせた。

「……放っておいてくれ」

「ふーん。ママから聞いたよ? あんた、結構いいモノ持ってるんだってね」

下卑た笑みを浮かべる彼女の手が、俺の脚に伸びてくる。
俺は咄嗟にその手を払い除けた。

「やめろよ!」

「なぁに、照れてんの? 私、こういう扱いには慣れてるから」

彼女の瞳には、継母と同じ種類の歪んだ光が宿っていた。

「あんまり抵抗すると、後で痛い目見るよ?」

その冷たい警告を残し、未菜は部屋を出て行った。
俺は崩れ落ちるようにベッドに座り込んだ。

その夜から、俺は眠れなくなった。
体力は落ち、顔色も悪くなっていった。

ある日、放課後の図書館で時間を潰していると、未菜と香菜が現れた。

「修太ー、帰るよー」

逃げ出したい一心だったが、騒ぎを起こすわけにもいかず、
俺は二人に挟まれるようにして家へと連行された。

家に帰り着くと、親父はまだ不在だった。

二人は俺をソファに押し留め、逃げ場を塞いだ。

「ねぇ、修太。ママをあんなに喜ばせたんだから、私たちにもサービスしなさいよ」

未菜のねっとりとした声が響く。

「……知らないよ、何の話だよ」

俺の抵抗も虚しく、二人は強引に俺の服に手をかけた。

「わあ……本当だ。ママの言う通り、すごい……」

香菜の興奮した声が耳元で鳴る。

二人の手が代わる代わる俺の身体を弄び、
俺の意志とは関係なく、本能だけが熱を帯びていく。
それが堪らなく惨めだった。

「修太、気持ちいいんでしょ? 正直になりなよ」

彼女たちの指先が、爪が、容赦なく俺を刺激する。
恐怖を快感が塗り潰していく感覚に、俺の理性は白濁していった。

「ダメだ……!」

「いいのよ、そのまま全部出しちゃって!」

誰の声かも分からない叫びが響き、俺の身体の奥から熱い衝動が噴出した。
その瞬間、二人は俺を強く締め付け、その感覚を貪るように共有していた。

「最高だったよ、修太。また遊ぼうね」

恍惚とした表情の二人を前に、俺は何も言えなかった。

その後、俺は意を決して、早く帰宅した親父に助けを求めようとした。

「あのさ、親父……」

だが、親父はテレビを見たまま、面倒くさそうに吐き捨てた。

「なんだよ、うるせぇな」

その一言で、俺の心は完全に折れた。

この男に話したところで、何の意味もない。

俺は部屋に戻り、静かに涙を流した。
誰も、俺を助けてはくれない。
俺は、この地獄の中でたった一人だった。

第4章:BAR GINO、暗闇に差す唯一の光

学校では相変わらず友達が心配してくれるが、本当のことは何一つ話せない。

家に帰れば、あの三人の視線に晒される。

彼女たちの目が俺を追うたびに、身体が拒絶反応でビクリと跳ねた。

夜、ベッドに入っても眠れない。

昼間の光景が頭の中で何度も繰り返される。

彼女たちの冷淡な声、有無を言わさない力、そして逃げ場のない空気。
すべてが俺を苛み続けた。

このままでは、俺は壊れてしまう・・・。

そう思った時、俺の心の中に暗い情熱が芽生えた。

恐怖と絶望、そして、自分を弄んだ存在への強い反発心だ。

どうして、俺だけがこんな目に遭わなければならないんだ?

(いつか、あいつらに思い知らせてやる。
二度と俺を馬鹿にできないように、圧倒的な力を手に入れてやるんだ・・・)

それは歪んだ形ではあったが、当時の俺が自我を保つための唯一の方法だった。

まずは身体を鍛え始めた。
家の近くの公園に行き、一人でトレーニングを重ねる。

腕立て伏せ、腹筋、スクワット。

最初は数回で息が切れたが、毎日続けるうちに、少しずつ身体が引き締まっていく。

筋肉がつくたびに、いつかこの力で自分を守れるかもしれないという希望が湧いた。

同時に、人間の心理についても調べるようになった。

なぜ人は他人を支配しようとするのか?
どうすれば他人の悪意を退け、自分の意思を通せるのか?

図書室で心理学の本を読み漁り、人の心を動かす術を頭に叩き込んだ。

いつか、この知識を使ってあいつらを……。

そんな俺の異変に、親父は全く気づいていなかった。

相変わらず酒と女にかまけ、家にいる時間はわずかだ。

継母と義姉たちは、俺が黙々とトレーニングや読書に励む姿を鼻で笑っていたのかもしれないが、俺にとっては好都合だった。
彼女たちの油断が、俺に力を蓄える時間を与えてくれた。

中学三年生になり、高校受験が近づいてきた。

家庭内での精神的な圧迫は続いていたが、
身体の成長とともに、俺の心には一つの決意が固まっていた。

学校での進路相談の日。
先生が優しく語りかけた。

「新井、行きたい学校はあるか?」

「……県外の高校に行きたいです」

この家から、この街から、
俺を知る者が誰もいない場所へ逃げたかった。

先生は驚きつつも、「頑張れよ」と背中を押してくれた。

だが、問題はお金だった。

親父に相談しても、

「贅沢言うんじゃねぇ。ここにいれば飯も寝る場所もあるだろうが」

と一蹴された。

やはり、この男には何も期待できない。

俺は自分で資金を作る方法を考え始めた。

放課後、一人で街を歩きながら、中学生でもできる仕事を探した。

そんな時、ふと目に留まったのが
<BAR GINO>という店の看板だった。
そこには「見習い募集」の文字があった。

バーテンダーなら夜の仕事だ。
家を空ける時間が増える。
それは俺にとって願ってもない条件だった。

思い切って電話をかけると、落ち着いた男性の声がした。

「君、まだ学生さんかな? うちは学生は禁止なんだ……」

断られると思ったが、相手は続けた。

「でも、君の声には何かを感じる。一度、話だけでもしに来ないか?」

数日後、俺はバーの重い扉を開けた。

店内は落ち着いた大人の雰囲気で、
マスターが穏やかに迎えてくれた。

「どうして家から離れたいんだい?」

その問いに、俺は言葉に詰まった。

だが、マスターの誠実な眼差しに、
俺の凍りついていた心が少しずつ溶け出していった。

気づけば、俺はすべてを話していた。

家で起きている仕打ち、親父の無関心、
そして、ここから抜け出したいという切実な願い。

マスターは最後まで黙って聞いてくれた。
話し終えた後、彼は静かに口を開いた。

「新井君、君は本当によく頑張ったな。一人でよく耐えてきた」

その言葉で、俺の感情が溢れ出した。
声を上げて泣く俺の背中を、マスターは優しく撫でてくれた。

「新井君。まだ中学生の君を夜遅くまで働かせるわけにはいかない。でも、君を助けたい」

彼は一つの提案をしてくれた。

開店前の店の掃除や仕込みだけを手伝う
「開店準備要員」としてなら、
アルバイトとして受け入れるというものだった。

「……やらせてください!」

俺は食い気味に答えた。

「いいかい。これは君が自分の力で立ち上がるための、ほんの少しの助けだ。この地獄を乗り越えるのは、最終的には君自身の力なんだよ」

マスターの言葉が深く胸に響いた。

そうだ。誰かに頼り切るのではなく、俺は俺自身の力で、この泥沼から這い上がってみせる!

「ありがとうございます……!」

俺は深く頭を下げた。

暗闇の中に、ようやく確かな光が見えた気がした・・・。

-【軌跡】