策謀の録音と虚無の謝罪
シャァァァァーーー・・・・
和城との一夜を終えた美央の心には、穢れを落とすかのように自分の家で強めのシャワーを浴びていた。

キュッ、キュッ・・・
だが、美央の心には海斗と分かち合う快楽とは全く異なる、冷たい決意が宿っていた・・・。
夫への復讐・・・。
その目的のためならば、和城のような男に体を許すことなど、厭いはしなかった。
和城は、美央との取引に応じるべく、寛の不倫の証拠集めに奔走した。
彼は寛の行動パターンを注意深く観察し、海外出張のスケジュールや現地の関係者からの情報を地道に集めた。
さらに探偵を雇い、決定的となる写真や情報を得るため、時間と金に糸目をつけなかった。
数ヶ月後、和城から美央へ連絡が入る。
寛の不倫現場を捉えた複数の証拠が手に入ったという。
和城は報酬として、美央とのさらなる肉体関係の継続を要求し、証拠を渡すために美央の家で会う約束を取り付けた。
美央は、和城の要求に応じるふりをしながら、ある策謀を巡らせていた。
和城が来る前に、部屋の目立たない場所に高性能なICレコーダーを複数設置した。
予備のバッテリーも準備し、和城との会話の一部始終を録音するため、細心の注意を払った。
約束の日、和城は美央の部屋に現れた。
不敵な笑みを浮かべ、証拠の入った封筒をちらつかせながら、再び肉体関係を迫る。
「さあ、約束通り、続きといこうじゃないか・・・ヒヒッ・・・」
「あっ・・・、いや・・・っ・・・」
美央は嫌がる演技をしながらも、最終的には和城に体を許した。
ジィィィィィーーー・・・
その間、部屋に仕掛けられたICレコーダーは、二人の会話と生々しい音を克明に記録し続けていた。
和城が帰り、美央は録音したデータを隠し持ったまま、寛に連絡を入れた。
「ねえ、あなた・・・。ちょっと、いい…?」
美央は声色を作り、
「和城さんに、襲われた」
とだけ伝えた。
この一言で、寛は激昂した。
彼のプライドが、妻が同僚に手を出されたという事実を許せなかった。
寛は急遽、赴任先から一時帰国。
単身、本社に乗り込んだ寛は、仕事中の和城に詰め寄った。
ツカ!ツカ!ツカ!ツカ!
「おい和城!てめぇ、うちの美央に何しやがった!?」
和城の胸ぐらを掴んで締め上げる寛。
突然の事態に、社内は騒然となる。
二人の間に掴み合いの乱闘が勃発し、会社の秩序は掻き乱される。
事態を知った会社側が間に入り、事情聴取が行われた。
事情聴取が始まってすぐ、和城は一切をシラを切り通そうとしだした。
「私は何もしていません!全て美央さんの虚言です!」
しかし、美央には切り札があった。
彼女は隠し持っていた録音データを会社側に提出した。
音声データには、和城が美央に肉体関係を迫り、それに応じる二人の生々しいやり取りが記録されていた。
もはや言い逃れはできなかった・・・。
和城は会社を懲戒解雇された。
事態が収束した後、寛は美央に歩み寄った。
「…美央。そばにいてやれなくて、すまなかった・・・」
しかし、その言葉に感情はこもっていなかった。
ただ、世間体を気にした、形だけの謝罪。
美央はそれを敏感に感じ取ったが、内心の侮蔑を隠し、
「ううん。あなたのせいじゃないから、気にしないで・・・」
と寛を労わる演技をした。
寛は美央の態度に安堵し、再び海外の赴任先へと戻っていった。
寛が去った後も、美央は海斗の部屋で家事代行の仕事を続ける傍ら、彼との肉体関係を重ねる日々を続けていた。
海斗は、美央と体を重ねるたびに、彼女への愛情を深めていった。
しかし、彼女が人妻であること、そして自身の控えめな性格から、その気持ちを素直に伝えることができずにいた。
美央もまた、海斗の優しさと、彼との時間の中で感じる安らぎに依存し始めていた。
それは、夫への復讐とは異なる、温かい感情だった。
ある夜、海斗の家から戻った美央は、一人自宅で静かに考え事をしていた。
いつも自分に優しく、大切にしてくれる海斗。
そして、遠い異国で自分を知らない女と浮気を楽しむ夫。
ゴゴゴゴゴゴ・・・・
美央の心の中で、複雑な感情が渦を巻き、溢れ出した。
海斗への温かい想いと、夫への冷たい怒り。
その二つが、彼女の内でせめぎ合う。
窓の外では、静かに雨が降り始めていた。
ポツポツとアスファルトを叩く雨音を聞きながら、美央は一つ、決意を固めた。
(このままではいけない・・・。この歪んだ状況に、終止符を打たなければ・・・!)
まず、寛との関係に決着をつける。
そう心に誓った美央の瞳に、強い光が宿った。