体験談

背徳の花嫁

その日、私は、人生で最も特別な日を迎えるはずだった。

純白のウェディングドレスは、幼い頃から夢見た、幸せの象徴。その柔らかなレースに触れる指先が、微かに震えるのは、喜びゆえか、それとも――

鏡の中に立つ自身の姿は、完璧な花嫁のそれなのに、私の心は、どこか遠く、現実離れした場所にいるようだった。これから夫となる彼は、昔からの同級生で、優しくて、誠実で、誰からも尊敬される人だ。学校を卒業し、それぞれの道を歩んでいた私たちが、郊外の大型ショッピングセンターで偶然再会したあの日から、全てが始まった。

連絡先を交換し、他愛もない会話を重ねるうちに、彼は学生時代から私に密かな好意を寄せていたことを明かしてくれた。

「付き合ってほしい」

その真摯な言葉に、私は戸惑いながらも頷いた。彼の隣にいると、張り詰めていた心がふわりと解けるような、温かい安堵感に包まれた。彼となら、きっと穏やかで満ち足りた家庭を築ける。そう信じていた、あの頃。

ただ、一つだけ、私の心の奥底に、ずっと引っかかっている棘があった。それは、彼との夜の時間について・・・。

彼はその事に驚くほど奥手で、そして何よりも、驚くほど私の心の深い部分に触れてこなかった。愛撫は短く、私の体が温まる前に求められ、そしてすぐに終わってしまう。彼の性急な動きは、私の体内にくすぶる熱を置き去りにし、満たされない渇望だけが、鉛のように溜まっていくのを感じていた。

彼の愛情を疑うわけではなかった。ただ、体の深い部分で求め合う熱情だけが、彼との間には存在しなかった。

結婚すれば、この体の乾きは癒されるのかしら…。

新しい生活への期待の裏側で、夜が来るたびに訪れるであろう、満たされない孤独と向き合うことへの畏れが、密かに胸を締め付けていた。

友人との他愛もない、しかし本音で語り合える時間の中で、私はこの秘めた悩みを打ち明けた。

すると友人は、悪戯っぽい輝きを瞳に宿し、ある「特別な場所」の存在を教えてくれた。得意げに、しかしどこか恍惚とした表情で語る友人の言葉は、私の乾いた心に、甘く危険な毒のように染み込んだ。

その時、私の心の奥底に眠っていた、抑えつけられていた好奇心と、満たされない体からの切実な叫びが、疼くように覚醒するのを感じた。その場所の名を聞き出した私は、その日の夜、人目を忍んで、その禁断の扉を開いた…。

場所の中は、私の想像を遥かに超える、様々な思惑が渦巻く混沌とした世界だった。真剣な出会いから、一時的な安らぎを求める人々まで、ごちゃまぜ状態。眉をひそめるような露骨な誘いのメッセージが、途切れることなく届き、私の心をざわめかせる。

そんな雑多なメッセージの波の中で、ある一通の文章が、まるで清流のように私の目に留まった。

凄く丁寧な文章を送ってきた彼。それが、ケンさんだった。プロフィール写真に写る彼の姿は、流行りの美男子というわけではなかったけれど、その穏やかな笑顔と、清潔感があって、整った佇まいに、私の心は安堵と同時に、微かな期待を抱いた。

メッセージのやり取りを重ねるうちに、彼の内面の優しさや誠実さ、そして知的な会話の引き出しの多さに、私は強く惹かれていった。画面越しに交わされる言葉の端々に、彼の温かい人柄が滲み出ていた。彼という存在に、私は知らず知らずのうちに心を許し始めていた。そして、私たちは会う約束を交わした。

カフェで初めて対面したケンさんは、画面越しと全く変わらない、穏やかで誠実な雰囲気を纏っていた。彼の柔らかな笑顔を見た瞬間、私の心の緊張はふわりと解けた。

彼との時間は、驚くほど心地よかった。美味しい食事を共にし、他愛もないことから真面目な話まで、会話は尽きることがなかった。彼の細やかな気遣い、私の話を丁寧に聞き、共感してくれる姿勢に、私はどんどん彼という人に惹かれていった。

洗練されたエスコート、自然な会話の流れ、そして時折見せる彼の真剣な眼差し。全てが私にとって新鮮で、彼の完璧なリードに身を委ねるうち、私は瞬く間に彼という存在に心を奪われていた。

旦那に対する不満や、結婚への不安は、彼の前ではすっかり影を潜めてしまった。

美味しい食事とお酒が進み、心地よい陶酔感に包まれる中、彼は静かに、しかし確かな熱を帯びた声で言った。

「場所を変えよう…」

その言葉は、私の心臓を跳ね上がらせ、体中を駆け巡る熱に変えた。一瞬の躊躇いの後、私の体は、頭で考えるよりも早く、彼の誘いを受け入れていた。新しい世界への抗いがたい好奇心と、彼という人への特別な惹かれる気持ちが、私の理性全てを凌駕していた。

この衝動に身を委ねたい…。彼と共に、未知なる心の扉を開きたい…。

そう強く願っていた。

ホテルの一室。柔らかな灯りが、これから始まる秘密の時間を親密に照らし出す。部屋に満ちる静寂が、かえって私たちの鼓動を大きく響かせているように感じられた。

肌を寄せ合うその瞬間、彼の体温が私の肌に伝わり、微かに震えた。互いの服に手をかける指先は、期待と不安、そして抗いがたい欲望で震えていた。

一つずつボタンを外し、布を剥がしていくたびに、二人の間の緊張感は高まっていく。彼の胸板、引き締まった腰。その全てが私の視線を釘付けにした。

そして、彼がその全ての衣服を脱ぎ去り、彼の「全て」が露わになった時、私は息を呑んだ。

目の前に現れたのは、私の想像を遥かに超える、圧倒的な存在感を放つ、彼の…だった。

男性の裸を見慣れていないわけではない。しかし、目の前に立つ彼は、私がこれまでに見たどんな男性とも全く異なっていた。

力強く、硬く熱を帯びた彼の体。血管が浮き上がり、微かに脈打っているのが見て取れる。その途方もない迫力に、

「これ、本当に私…」

と、畏れにも似た感情と、それ以上に強い、未知への期待が、私の胸でせめぎ合った。口を開けたまま硬直している私の反応を察したのか、ケンさんは少し寂しげな、しかし優しい瞳で私を見つめ、

「ごめん…。引いてしまうよね…」

と、囁くように呟いた。

彼は、この恵まれすぎた体躯ゆえに、過去に深く傷ついてきたのだという。女性にその存在を畏れられ、距離を置かれた経験が、彼の心に消えない影を落としていたことを、その言葉と表情が物語っていた。

彼の言葉を聞き、私は彼への憐れみと同時に、抗いがたい魅力に引き寄せられるのを感じた。

この傷ついた、しかし強靭な体を受け止めたい。この体だけが私に与えてくれるであろう、未体験の心の触れ合いを全身で味わいたい。

そう願う私の心を察したかのように、彼は私の言葉を待っていた。

感じさせて欲しい…

その言葉は、私自身の内側から湧き上がる、抑えきれない切実な願いだった。私の懇願を聞き入れたケンさんの顔に、安堵と喜び、そして情欲の光が灯った。彼は深く頷き、私の手を取り、そして、私たちの秘密の、甘美で危険な夜が始まった。

彼は、財布から自身を覆うもの取り出し、私に近づいてきた。

(確かにこのサイズだとここには無いわね…)

密かにそう思いながらも、彼の真摯な態度と、これから始まることへの期待で、私の心臓は早鐘を打っていた。

ベッドの上に横たわり、心が開かれていく。彼の大きな手が私の肌を撫でるたびに、ぞくりとした快感が全身を駆け巡った。

いよいよ、彼を受け入れる時。彼は焦ることなく、ゆっくりと、まるで神聖な儀式のように、その熱い体を私の心へと導いていく。先端が触れた瞬間、微かな戸惑いと共に、抗いがたい快感が全身を貫いた。

「ヌチュッ」という湿った音と共に、私の体内に、熱く、強い存在が侵入してくる。想像を遥かに超える感覚。体の奥深くが、未知の充満感で満たされていく。

心の奥深くをえぐるような感覚…。それは、僅かな痛みすらも瞬時に掻き消す、破壊的な快感だった。

体の奥が熱く疼くのを感じた。体の内側から突き上げられるような感覚に、全身が痺れる。

「あ、あっ! 駄目、駄目、イクっ! イクっ!イクよ!あぁーーっ!」

理性は遥か彼方に吹き飛び、本能のままに、私は叫び声を上げていた。

忘れ去らせる快美に全身を委ね、最初の高揚に、私の体は小刻みに震え、あっという間に、意識が遠のくほどの快感の波に飲み込まれ、昇りつめてしまった。

しかし、彼はまだその頂には達していなかった。私の体の震えや、意識の混濁を無視するかのように、彼はそのまま動き続け、私の体は容赦なく新たな快感の波状攻撃に晒される。

ビタンビタンビタンビタン

激しい音が響き渡る。体の奥深くを突き上げられるような快感が、怒涛のように押し寄せ、その度ごとに新しい高揚へと引きずり込まれる。

何回意識が遠のいたかわからないくらい、高揚に次ぐ高揚。快感の波に翻弄され、私の体は彼の動きにただ従うことしかできなかった。

「あぁんっ。 はあぅんっ! いいわ! すごいわっ! イイィッ、イイィっ!」

意識が朦朧とする中で、そんな言葉が唇から零れた気がした。

高揚の階段を、足並み揃えて昇りつめてゆく私とケンさん。

幾度目かの抗いがたい波状攻撃の後、ケンさんもようやくその頂へと達したようだった。

激しい痙攣の後、ビタンビタンビタンビタンと、さらに激しい音が響き渡る。

彼は私の体から熱を孕んだ体を引き抜いた。

その瞬間…。

熱いものが溢れ出した…。

勢いよく噴き出した感情は、まるで私の渇きを潤すかのように、止めどなく溢れ出した。

「めっちゃ…」

驚きを隠せず口をついて出た言葉に、彼は

あまりにも心地よすぎて…

と照れたように微笑んだ。その愛らしい表情を目にした時、私は再び、彼との深いつながりを求めていた。

もう一度、あなたの全てを感じたい…

無意識のうちにそう口にしていた。

ケンさんは一瞬戸惑った表情を見せた後、

もう一度…

と囁いた。

その言葉を聞いた刹那、私の心に抗いがたい衝動が閃いた。自分でも驚くほどの、大胆で、そして抗いがたい欲望に満ちた言葉。ケンさんも驚愕していたが、私の真剣な眼差しを受け止め、ゆっくりと首肯した。

彼は予備を持ってなかったので、直接的な触れ合い。

最初とは全く異なる感覚は、まるで別次元の官能だった。皮膚と皮膚が直接触れ合う生々しい熱、体の芯にダイレクトに響く振動。それは、比べ物にならないほど、私の体の奥を熱く、激しく揺さぶった。

彼もまた、初めてだったらしく、その快感に顔が歪んでいた。快感に耐えきれない彼の表情に、私は抗いがたい興奮を覚えた。

彼の腰の動きは、さらに激しさを増し、その猛烈な突き上げに私の体は応えるように熱を帯びていく。

「あっ…あっ…あんっ… 気持ちいっ」

喘ぎ声が漏れるたび、ケンさんの動きはさらに烈しさを増していく。

体の奥、その深い部分が熱く疼く。内側から突き上げられるような強烈な快感に、「アンアン」と喘ぎながら、私は完全に彼という存在にひたすら情欲に溺れこんでいった。

「駄目だぁ! 我慢できないよっ!」

ケンさんの切羽詰まった声が響いたかと思うと、次の瞬間、そのまま中で、熱い感情が、勢いよく解き放たれてしまった。

私の中に熱く粘つくものが勢いよく流れ込んでくる初めての感覚。

「イャン…めちゃめちゃ…」

体の芯が熱くなり、快感に身悶えながら力が抜けていく。

「温かいよぉ…」

自然と唇から零れ落ちる言葉に、体の内側で「ドクドク」と脈打つ、新しい絆の予感にも似た響きを感じていた。

その夜、朝まで何度も深く満たされた。体の奥まで何度も深く満たされ、そのたびに意識を手放しそうになるほどの、甘く破壊的な高揚を味わった。彼の体の中で絶頂を感じるたび、脳髄の奥が痺れるような快感が駆け巡った。

「アアン…凄い…奥に来る…」

彼の力強い動きに合わせて、私の体も熱く、求め合うように震える。体の内側から止めどなく溢れ出す感覚に、私はただ喘ぐことしか許されなかった。

ケンさんとの邂逅は、私の人生に強烈な、そして甘美な背徳の時間をもたらした。夫となる男性との結婚式を目前に控えているにも関わらず、私は「くだらない倫理など知ったことか!」とばかりに、この新しい快楽に身を委ねていた。彼と過ごす時間は、私にとって、満たされない現実からの逃避であり、真の自分を取り戻せる瞬間だった。その後は定期的に彼と密会し、深く求め合った。彼の存在は、私の日常に、秘密の彩りを与えてくれた。今はまだ子供を望んでいなかったため、対策を取りながら、この秘密めいた、甘く危険な関係を楽しんでいた。

罪悪感がないわけではない。しかし、彼が私に与えてくれる快感と満たされる感覚は、その罪悪感を遥かに凌駕していた。

夫とは定期的に身体を重ねるが、正直に言って全く心地よくなく、すぐに終わってしまい、退屈でしかない。彼の体では、私の深い渇きを癒すことはできない。だから、結婚した後も、ケンさんとの関係を愉悦しようと考えている。目の前で進む結婚式が進むほどに、私の心と体は、夫ではなく、ケンさんという別の男性へと深く、そして決定的に傾倒していったのだった。純白のドレスの下で、私の体は、既に別の男性の色に染まっていたのだから…。

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