引き裂かれる心
菜々が悠馬のオフィスに入ると、ドアが音もなく閉まった。
カチリ、という微かな音が、菜々の心臓に鉛のように重く響く。
室内に差し込む西日が、悠馬の顔に陰影を作り出し、普段よりも一層、彼の表情を読みにくくしていた。
菜々の心臓は、警鐘のように激しく鳴り響いていた。
悠馬の視線が、まるで鋭い刃物のように菜々の全身を貫く。その視線は、菜々の肌を焼き、心を凍らせる。
「菜々。最近、随分と生き生きしているじゃないか」
悠馬の声は、穏やかな響きを装っていたが、その言葉の裏には、冷たい怒りが渦巻いているのを菜々は感じ取った。
彼の言葉は、菜々と隼人の間に芽生え始めたかすかな繋がりを、すべて見透かしているかのように、菜々の心を深く抉る。
「…そんなことはありません」
菜々は、目を逸らして答えた。
その視線は、悠馬のデスクに置かれた書類の山に向けられていた。
彼の視線に捕らえられるのが、怖かった。
悠馬の存在そのものが、菜々にとっての重圧だった。
「ほう?そうか。だが、俺にはそうは見えないな」
悠馬はゆっくりと椅子を立ち上がり、菜々の前に立った。
彼の影が、菜々の身体を覆い隠す。
菜々の全身に、ゾクリと悪寒が走る。悠馬の指が、菜々の顎を掴み、無理やりその顔を上向かせた。
菜々の瞳が、不安と恐怖で揺れる。
その視線が悠馬の瞳と絡み合った瞬間、菜々の心臓は飛び跳ねた。
「お前は、俺の隣で輝く女だ。他の男と馴れ合うなど、許さない」
悠馬の言葉は、氷のように冷たく、菜々の心を凍りつかせた。
彼の指が、菜々の唇をゆっくりと撫でる。
その触れ方は、甘く、そして同時に恐ろしいほどに支配的だった。
菜々の身体は、彼の指が触れるたびに、電気に打たれたように震えた。
唇に残る悠馬の指先の感触が、菜々を一層怯えさせる。
「俺は、お前の全てを知っている。お前がどんな時に俺を求め、どんな時に抗えないか…全てだ」
悠馬は、菜々の耳元で囁いた。
彼の吐息が、菜々の耳朶をくすぐる。
菜々の身体は、本能的に彼に反応し、その肌が熱を帯びていく。
悠馬の指が、菜々のブラウスのボタンに触れ、一つ、また一つと外していく。
カチリ、カチリと、ボタンが外れる音が、静かなオフィスに響き渡る。
それはまるで、菜々の心が解放されていく音のようであり、同時に、彼女がさらに深く囚われていく音のようでもあった。
ボタンが全て外れると、ブラウスがはだけ、菜々の白い肌が露わになる。
オフィスに差し込む西日が、その肌を淡く照らし出す。
悠馬の視線が、菜々のデコルテから胸へと滑り落ちる。
彼の瞳には、どす黒い欲望の炎が燃え盛っていた。
「や、めて…悠馬…さん」
菜々は、か細い声で抵抗したが、その手は悠馬の腕に触れることさえできなかった。
彼の支配は、あまりにも強固だった。
悠馬の指が、菜々の柔らかな胸を覆い、ゆっくりと揉みしだく。
弾力のある感触が、悠馬の指に伝わる。
菜々の身体は、電気に打たれたようにピクリと跳ねた。
胸の奥から、熱いものがこみ上げてくる。
それは、羞恥と、そして抗えない快感の混じり合った感情だった。
菜々の喉から、小さな喘ぎ声が漏れる。
「さあ、菜々。お前の身体で、俺を満足させてみろ」
悠馬の声は、どこまでも冷酷だった。
彼の唇が、菜々の首筋に吸い付く。
チュッ、と湿った音が静かなオフィスに響いた。
菜々の全身に、ゾワゾワと鳥肌が走る。
彼女の身体は、悠馬の触れる場所全てに反応し、熱を帯びていく。
悠馬の舌が、菜々の耳裏を這う。
菜々の背筋に、熱い電流が走る。
悠馬は、菜々を抱き上げ、デスクの上へと座らせた。
菜々のスカートが捲り上がり、その白い太ももが露わになる。
悠馬の視線が、菜々の下半身に釘付けになる。
彼の指が、スカートの中に滑り込み、菜々の内腿を撫でる。
菜々の身体が、ビクリと震える。彼女の息が、荒くなる。
「っ…んぅ…」
菜々の口から、喘ぎ声が漏れる。
悠馬の指が、さらに深く、菜々のデリケートな部分へと触れる。
菜々の身体は、完全に悠馬の支配下に置かれていた。
羞恥と、そして抗えない快感が、菜々の全身を駆け巡る。
菜々の指が、悠馬の肩を掴み、爪が食い込むほどに力を込めた。
その痛みさえも、悠馬にとっては心地よかった。
彼は、菜々の髪を掴み、その顔を覗き込んだ。
瞳は潤み、頬は紅潮している。

その姿は、悠馬の支配欲をさらに満たしていく。
「どうした、菜々。そんなに強がって…俺に求められているのが、嫌か?」
悠馬の低い声が、菜々の耳元で囁かれた。
彼の身体が、菜々の身体に密着し、お互いの熱が伝わり合う。
菜々の身体の曲線、その全てが悠馬の欲望を刺激し、彼を狂わせた。
荒々しい呼吸が、オフィスに響き渡る。
菜々の喘ぎ声が、その音に混ざり合う。
彼女の理性は薄れ、本能だけが残った。
悠馬は菜々から感じる快感を貪りながら、菜々の中で果てる。
「あぁ・・・。中で・・・、あぁ・・・」
快感に悶え身体をよじる菜々。
「そうだ、それでいいんだ。菜々・・・」
悠馬は菜々を抱きしめながら、支配欲を満たしていた。
その頃、杉本隼人は、菜々のことが気になり、仕事の途中で彼女のデスクを訪れた。
しかし、菜々の姿はそこになかった。
まさか、と嫌な予感が隼人の脳裏をよぎる。
悠馬のオフィスからは、微かに物音が聞こえる。
それは、何かを擦るような、あるいは身体がぶつかるような、聞き慣れない音だった。
隼人の胸に、黒い感情が再び湧き上がってきた。
「くそっ…!」
隼人は、思わず拳を握り締めた。
悠馬が菜々に何をしているのか。
想像するだけで、隼人の全身の血が逆流するような感覚に陥った。
菜々を救い出したい。その思いが、隼人の心を支配していた。
だが、今の自分に何ができるのか。無力感が、隼人を苛む。
彼の掌に、爪が食い込むほどの痛みが走る。
一方、青山莉子は、その日の夜も悠馬からの連絡を待っていた。
スマホを何度も確認するが、悠馬からのメッセージは一向に来ない。
莉子の心に、深い不安が募っていく。
悠馬が、今、どこで何をしているのか。
菜々のことが、常に莉子の心を締め付けていた。
莉子は、悠馬のSNSを再び開いた。
そこには、先日一緒に食事をした時に悠馬が撮った、自分の写真がアップされている。
しかし、その写真のコメント欄には、見知らぬ女性たちからの甘いメッセージが溢れていた。
莉子の胸に、深い嫉妬が湧き上がってきた。
悠馬は、自分にとって特別な存在だと信じていたのに。
彼の言葉、彼の優しさが、全て嘘のように思えた。
「悠馬さん…どうして…私だけじゃダメなの…?」
莉子は、虚しく呟いた。
彼女は、悠馬の才能に惹かれ、彼が作り出す世界に魅了されていた。
しかし、彼が自分を本当に愛しているのか、それとも単なる気まぐれに過ぎないのか、常に疑念を抱いていた。
彼に捨てられることへの恐怖が、莉子を苦しめていた。
莉子の指が、無意識のうちに自分の太ももを撫でた。
悠馬に求められることでしか、自分の存在意義を見出せない莉子の悲しみが、そこに滲んでいた。
杉本隼人は、その夜もジムで汗を流していた。
サンドバッグを叩く彼の拳は、以前よりも強く、そして速くなっていた。
ミットが鈍い音を立てて揺れる。
彼の心の中で、悠馬への憎悪が、さらに深い根を張っていく。
菜々を救い出したい。その思いが、彼の身体を突き動かしていた。
「あいつを…許さない…!」
隼人の口から、低い唸り声が漏れた。
彼の瞳には、復讐の炎が宿っている。
菜々の疲れた横顔、そして悠馬の傲慢な態度。
全てが、隼人の怒りを増幅させていた。
筋肉が軋むほどの痛みも、彼にとっては心地よかった。
この痛みが、自分を突き動かす原動力となる。
深夜、悠馬のオフィスから出てきた菜々は、憔悴しきっていた。
その瞳には生気がなく、足取りも重かった。
彼女の身体からは、悠馬の香水の匂いが、強く漂っている。
それは、悠馬の支配の証のようだった。
ブラウスのボタンは、歪に閉められていた。
ジムの帰り、偶然、その場を通りかかった隼人は、菜々の姿を見て、衝撃を受けた。
彼の胸に、激しい怒りがこみ上げてくる。
悠馬への憎悪が、限界に達しようとしていた。
「坂井さん…!」
隼人は、菜々に駆け寄ろうとした。
しかし、その一歩を踏み出すことができなかった。
悠馬の影が、あまりにも大きすぎたのだ。
悠馬が、どこからか自分を見ているのではないかという恐怖が、隼人の足を止めさせた。
菜々は、隼人の存在に気づくこともなく、そのままオフィスを後にした。
その背中は、あまりにも小さく、今にも消えてしまいそうに見えた。
隼人は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
彼の心に、無力感と絶望が深く刻み込まれていく。
悠馬は、オフィスの窓から、去っていく菜々の後ろ姿を満足げに見下ろしていた。
彼の顔には、微かな笑みが浮かんでいる。
自分の支配が、揺るぎないものであることを再確認したかのように。
しかし、その裏では、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、それぞれの関係に亀裂が入り始めていた。
菜々の心は、悠馬と隼人の間で引き裂かれ、莉子の心は、悠馬の裏切りに傷ついていた。
そして、隼人の心には、悠馬への復讐心が、黒い炎となって燃え盛っていた。
この破滅的な関係が、さらに加速していく予感を、誰もが感じ始めていた。