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救済者か、堕天使か 第三章:カフェ奥の秘密

再び、扉の鈴が鳴った。俺は、反射的にそちらに視線を向けた。そこに立っていたのは、信じられないことに、ミキだった。

「こんにちは、修太さん♪」

ミキは、修太に向かって、弾けるような笑顔を向けた。
その笑顔は、あの夜、修太に向けたものと同じ、親密な笑顔だった。
俺の耳が、カーッと熱くなるのが分かった。全身の血が、顔に集中していくような感覚に襲われた。

「あれ…?真輝人くん?」

ミキは、俺の姿に気づくと、驚いたような顔をした。その瞳は、俺を真っ直ぐに見つめている。俺は、言葉に詰まってしまった。

「あ!ミキちゃん!」

情けない声が、俺の口から漏れた。心臓が、まるでマラソン選手のように激しく鼓動を打つ。

「え…?真輝人くん、何でここにいるの…?」

ミキの問いに、俺は口ごもってしまった。どう説明すればいい?
修太とミキの関係を探りに来た、なんて言えるわけがない。俺の顔は、さらに赤くなっただろう。

「さくら、すまないが彼に説明してくれ。どうやら、僕と君の関係を疑っているようなんだ…」

マスターの言葉に、ミキは一瞬、戸惑ったような顔をした。
その表情は、どこか俺に申し訳なさそうに見えた。しかし、すぐにいつもの明るい笑顔に戻り、

「…あはは!真輝人くん。修太さんはね、私の命の恩人なの」

と、笑いながら言った。その声は、弾むように軽やかだった。命の恩人。
その言葉は、俺の胸に確かに響いた。俺の抱いていた嫉妬の感情は、少しだけ和らいだ。
もしかしたら、俺の考えすぎだったのかもしれない。胸の奥で、ホッと安堵の息が漏れた。

「そう、なんだ…」

俺は、安堵のため息を漏らしながら、相槌を打った。
ミキは、俺の横に座ると、マスターに

「修太さん、アイスレモンティーちょうだい♪」

と注文した。
その仕草は、まるで、家族に甘えるかのように自然だった。

「はいよ」

修太は、手際よくアイスレモンティーを作り始めた。
氷がグラスに触れる音が、カランカランと心地よく響く。ミキは、俺に向き直り、話し始めた。

「修太さんはね、私が昔、ホームレスになった時に出会って、部屋を探してくれて、私が再出発する時の手助けをしてくれた、おじさんなの」

その言葉に、俺の胸に抱えていた重苦しい塊が、少しだけ軽くなったような気がした。
命の恩人。おじさん。その言葉の響きが、俺の心を穏やかにしていく。俺の口元に、自然と笑みがこぼれた。

「はい、アイスレモンティー」

修太が、ミキの前にグラスを置いた。グラスから立ち上る、レモンと紅茶の爽やかな香りが、俺の鼻腔をくすぐる。

「ありがと♪修太さん」

ミキは、グラスを受け取ると、ニコリと笑った。その笑顔は、曇り一つない、純粋な笑顔だった。

「それと、おじさんじゃない。お兄さんと呼びなさい」

修太が、冗談めかしてミキに言った。その声には、どこか優しい響きが込められていた。

「はーい♪お・じ・さん♪」

ミキは、わざとらしく返事をした。その声は、まるで子供のようだった。

「こーら」

修太は、困ったように笑っている。その表情は、俺が見たことのない、柔らかな表情だった。

「えへへw」

ミキの笑い声が、店内に響く。その和やかな場の空気が、俺の笑いを誘った。
少しだけ、修太への警戒心が薄れた気がした。彼は、悪い人間ではないのかもしれない。

その時、奥のBOX席にいた女子高生が、修太に声をかけた。

「修太さん。私、帰るね・・・」

女子高生は、立ち上がり、鞄を肩にかけた。

「じゃぁね、りかちゃん。ありがとね。気を付けて帰るんだよ」

修太は、優しく女子高生に声をかけた。その声は、まるで兄が妹に語りかけるかのような、温かい響きだった。

「うん。ありがと」

女子高生は、軽く頭を下げて、店を出て行った。

カランカラン…

女子高生が店を出た後、俺は立ち上がった。

(どうやら、俺の勘違いのようだ・・・)

もう、ここにいる必要はない。俺の胸の中の疑問は、解消された。

「じゃ、僕も帰ります。マスター、変なこと言って、どうもすみませんでした」

俺は、深々と頭を下げた。頬の熱は、まだ完全に引いていなかった。

「いいよ。気にしないで」

修太は、俺の言葉を遮るように言った。その声は、どこか突き放すような響きだったが、俺は気にしなかった。

「ありがとうございました。失礼します」

再び頭を下げ、俺は店を後にした。

カランカラン…

俺が店を出た後、店内に残された修太と咲良の間には、再び静寂が訪れた。

「…咲良。こうゆうことになるから、誤解されるような行動は取るなと前にも言ったろ?」

修太の声は、先ほどまでとは打って変わって、冷たく響いた。
その声には深い響きが込められていた。

「ごめんなさーい」

咲良は、まるで子供のように謝った。しかし、その声には、どこか甘えが混じっていた。

「ったく、反省の色が見えないな。そういう子にはお仕置きが必要だな…」

修太の言葉を聞いた咲良の顔が、カーッと赤くなる。
その表情は、ミキがパドローナで見せる顔とは全く違うものだった。
それは、まるで、修太に全てを委ねているかのような、そして、そのお仕置きを望んでいるかのような、そんな表情。
修太は、ゆっくりと店のドアに鍵をかけ、プレートを裏返した。

「closed」

ドアから踵を返し、咲良に近づく修太の足音が、店内に響き渡る。

「咲良…。こっちおいで…」

修太の声は、甘く、そして咲良にしか届かないような、妖しい響きを帯びていた。

「はい…、修太さん…」

咲良は、まるで糸に引かれるかのように、修太に引き寄せられていく。
修太は、咲良の手を取り、カーテンの仕切りを抜け、奥の部屋に消えていった。

「あぁ・・・ダメ・・・修太さん♡・・・イっちゃう♡・・・」

「ほら・・・、中に出すよ・・・咲良・・・」

「あぁーん♡♡」

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