恋愛ストーリー

もう一度、君と歩むために 第四章:甘い日常と揺れる心


愛と身体を重ねた夜から、俺たちの関係はより一層深まった。毎日、愛からの「おはよう」のLINEで俺の一日は始まり、彼女の「おやすみ」のメッセージで終わる。デートの頻度も増え、二人で過ごす時間が、俺の生活の中心となっていた。バイト先のコンビニの蛍光灯の光も、以前より温かく感じられるようになった。愛の存在が、俺の日常に鮮やかな彩りを与えていた。俺の乾いた心に、愛という名の泉が湧き出したようだっ

ある日、愛の家へ行くことになった。愛からの誘いだった。

「聡さん、今度うちに来てよ。何か美味しいもの作ってあげる」

愛らしいおねだりに、俺は二つ返事で承諾した。約束の時間が近づくにつれて、俺の胸は高鳴っていく。愛の家に行くのは、初めてではない。何度か訪れているが、毎回新鮮な気持ちになる。

愛の住むマンションの最寄りの駅に着くと、時計を確認する。約束の時間ぴったり。愛は連絡をしてこなかったが、きっと俺が来る頃合いを見計らっているのだろう。彼女のそういう、どこか大胆で、それでいて細やかな気遣いが好きだった。期待と、ほんの少しの緊張を胸に、マンションのエントランスを抜け、目的の部屋の前に立つ。インターホンを押そうと、指を伸ばした、その時だった。

カチャリ、と静かな音を立てて、ドアが内側から開いた。


「お帰り、聡さん」


愛が、にこやかに俺を迎え入れた。驚いて目を丸くする俺を見て、愛はふわりと笑う。


「なんで気づいたの?」


俺は、呆れたように、しかし嬉しそうに尋ねた。


「ん?ふふ。聡さんが来る頃合いかなって思って。エスパーでしょ?」


愛は、悪戯っぽく微笑み、俺の腕に抱きついてきた。その華奢な体が、俺の体にすっぽりと収まる。


「ただいま、愛ちゃん」


その温かい体温が、俺の体にじんわりと伝わる。愛の甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐる。


「寒かったでしょ?外、結構冷えるから。早く中に入って」


愛は、俺の手を引いて部屋へと誘った。

愛の部屋は、想像していたよりもずっと可愛らしく、そして整頓されていた。白い壁には、小さな絵が飾られていて、窓際には観葉植物が置かれている。ほんのりと甘い香りがする。愛らしいクッションが並べられたソファ、清潔感のあるキッチン。彼女の生活が、この部屋に凝縮されているようだった。俺の殺風景な部屋とは大違いだ。彼女の温もりと、女性らしい繊細さが、部屋の隅々まで行き渡っている。

リビングに入ると、キッチンの方から、美味しそうな匂いがふわりと漂ってきた。


「あ、何か良い匂いがするな」


俺が言うと、愛は得意げに胸を張った。


「ふふ、今日は聡さんのために、腕によりをかけて作ったんだよ!あ、それからね、お風呂も沸かしておいたから!」


愛は、本当に嬉しそうに俺の顔を見上げた。その純粋な喜びに、俺の心は満たされる。


「すごいじゃん!ありがとう、愛ちゃん」


俺は、思わず愛の頭を優しく撫でた。

そして、愛は俺の顔をじっと見つめて、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。その笑顔は、俺の緊張を溶かし、同時に、期待を抱かせた。


「ねぇ、聡さん。私さ・・・。人生で言ってみたかったことがあるんだけど?」


愛は、そう前置きしてから、俺の目をじっと見つめた。


「お風呂にしますか?」


「うん。」
俺は、反射的に頷いた。彼女の言葉遊びに、思わず乗ってしまう。


「ご飯にしますか?」
「うん。」
「それとも…、私に、しますか・・・?」


愛は、囁くような声でそう問いかけた。その挑発的な言葉に、俺の全身に電流が走った。心臓が、ドクンドクンと激しく脈打つ。顔が、一気に熱くなるのを感じた。愛の言葉が、俺の心の奥底に直接響く。

愛は、俺の反応を見て、くすくす笑った。その可愛らしさに、俺は抗うことができない。俺は、愛のあまりにもストレートな問いかけに、戸惑いを隠せないでいた。しかし、同時に、彼女の可愛らしさに、どうしようもなく惹かれていた。この愛らしさに、俺は一生囚われていたい。

「……愛ちゃんにします」


俺は、そう言って、愛の体を抱き寄せた。彼女は、満足そうに微笑み、俺の胸に顔を埋めた。その夜も、俺たちは互いの体温を感じながら、深い愛を確かめ合った。肌と肌が触れ合うたびに、心と体が一体となっていくような感覚。愛の甘い吐息が、俺の耳元で熱く響く。理性など、もはや存在しなかった。ただ、目の前の愛だけが、俺の全てだった。熱く、甘い吐息が、部屋に充満する。互いの肌が触れ合うたびに、電流が走るような快感が全身を駆け巡った。時間を忘れて、愛の全てを感じたかった。

夜が明け、朝日が差し込む部屋の中で、愛は俺の腕の中で眠っていた。カーテンの隙間から差し込む光が、彼女の白い肌を優しく照らしている。その寝顔は、まるで子供のように無邪気で、あどけない。昨夜の激しさが嘘のように、愛は穏やかな寝息を立てている。スースーという小さな寝息が、部屋に響く。俺は、そっと愛の髪を撫でた。柔らかく、そして温かい。その髪は、まるで絹のように滑らかで、指の間をサラサラとすり抜けていく。その寝顔を見ていると、俺の心は、不思議と落ち着いていくのを感じた。

俺は、愛の寝顔を見つめながら、様々な感情が胸の中で渦巻いているのを感じた。喜び、安堵、そして、ほんの少しの不安。マッチングアプリで出会った俺と愛。こんな風に、誰かと深く繋がれるなんて、思いもしなかった。愛の存在が、俺の人生に、今まで感じたことのない幸福感をもたらしてくれた。俺の乾いた心に、潤いが与えられたような感覚だった。失っていた感情が、愛によって呼び覚まされた。

しかし、同時に、漠然とした不安も頭をよぎる。この関係は、一体どこへ向かうのだろう。フリーターの俺と、大学生の愛。社会への道を歩み始めた彼女と、未だ将来への具体的なビジョンを描けない俺。現実の壁が、この甘い関係の先に、立ちはだかっているような気がした。昨夜の熱情が、薄れていくにつれて、現実の冷たさが、じわりと胸に広がる。「このままで、本当に良いのだろうか?」という疑問が、頭の中で渦巻き始める。俺は、彼女に何をしてやれるのだろう。俺に、彼女を幸せにする資格があるのだろうか。そんな自問自答が、心の奥底で繰り返される。

愛が、ゆっくりと目を開けた。潤んだ瞳が、俺の目とぶつかる。朝日に照らされた彼女の瞳は、まるで宝石のように輝いていた。その瞳の奥に、少しだけ戸惑いが見えるような気がした。


「……聡さん」


愛の声は、まだ少し眠たそうだったが、どこか切なげな響きがあった。まるで、昨夜の出来事を確かめるかのように。


「愛ちゃん、おはよう」


俺は、優しく微笑んだ。そして、愛の頬にそっと手を添えた。愛は、俺の胸に顔を埋めた。その温かい体温が、俺の不安を少しだけ和らげてくれる。彼女の髪の毛が、俺の肌をくすぐる。その感触が、俺の心を穏やかにする。

「ねぇ、聡さん……私ね……」


愛が、何かを言いかけた。しかし、その言葉は途中で途切れた。彼女の表情は、一瞬だけ曇ったように見えた。まるで、何かを言おうとして、寸前で思いとどまったかのように。その沈黙が、俺の不安をさらに募らせた。


「どうした、愛ちゃん?」


俺は、愛の顔を覗き込んだ。その瞳の奥に、何か複雑な感情が隠されているように感じた。言いたくても言えない、そんな葛藤が見えた。
愛は、小さく首を振った。


「ううん、なんでもない。ただ、聡さんとこうしていられるのが、幸せだなって思っただけ。本当に……幸せだよ」


愛は、そう言って、俺の胸にさらに強くしがみついた。その言葉に、俺は安堵した。しかし、同時に、彼女の言葉の裏に隠された何かを感じ取らずにはいられなかった。彼女の抱える不安が、俺の不安と重なり合っているような気がした。その「なんでもない」という言葉の裏に、何が隠されているのか。

愛が大学へ行く準備を始めた。パジャマから着替える彼女の姿に、俺はそっとその背中を見つめていた。白い肌、しなやかな曲線。昨夜の記憶が鮮明に蘇る。彼女の服が、一枚一枚身につけられていくたびに、俺の心は少しずつ寂しさを感じた。時間が、あっという間に過ぎていく。愛が着替え終わると、俺の元に駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きしめてくれた。


「聡さん、今日も一日、頑張ってね。また、すぐに会えるかな?」


愛の声は、いつも通り明るく、俺は思わず微笑んだ。その明るさが、俺の胸の奥の不安を打ち消してくれるようだった。
「愛ちゃんもね。気をつけてな。ああ、もちろん。いつでも会いたい。いつでも待ってるから」
玄関で見送ると、愛は何度か振り返り、手を振ってくれた。その姿が見えなくなるまで、俺は玄関に立ち尽くしていた。

愛が去った後の部屋は、急に広くなったように感じられた。窓から差し込む朝日は、俺の心を照らすどころか、逆に孤独感を際立たせる。残された愛の香りだけが、昨夜の出来事を鮮明に記憶させている。ソファに座り、天井を仰いだ。幸せなはずなのに、胸の奥には、言いようのない不安が渦巻いている。この関係を、この愛を、俺は本当に守りきれるのだろうか。愛の将来を応援したいと心から願う気持ちと、俺自身の不安定な未来が、俺の心を大きく揺さぶっていた。この関係の先に何があるのか、俺にはまだ見えていなかった。ただ、この愛を手放したくないという強い思いだけが、俺の心を支配していた。まるで、熱病に冒されたかのように、愛の存在が俺の全てを支配し始めていた。

-恋愛ストーリー
-, , ,