「うわー! やっば! 健太、これ見て!」
野外フェスの会場で、吉田沙羅が興奮した声で叫んだ。目の前には、巨大なステージと、それを埋め尽くす観客の熱気が渦巻いている。俺、遠山健太は、沙羅の弾けるような笑顔を見て、思わず胸が高鳴った。
「すげーな! こんなに人いるんだな!」
俺も思わず声を上げた。広大な芝生の上には、色とりどりのレジャーシートが広げられ、そこかしこで歓声が上がっている。太陽が照りつけ、開放的な雰囲気が俺たちを包み込んでいた。
「ねえ、健太、とりあえずビール飲も! もう最高じゃん!」
沙羅はそう言って、俺の手を引いて屋台の方へ向かった。普段からフットワークが軽い沙羅は、こういう場所ではさらに活き活きとして見える。俺もそんな沙羅のペースに合わせ、自然と笑顔になっていた。
キンキンに冷えたビールを片手に、俺たちはステージの近くまで移動した。ちょうど、お目当てのバンドが演奏を始めたところだった。爆音のギターサウンドと、体を突き抜けるような重低音。観客は一斉に飛び跳ね、手を挙げ、一体となって音楽に身を委ねていた。
「うおおおおおおおお!」
俺も沙羅も、周りの観客と一緒に叫び、腕を振り上げた。全身で音楽を感じ、心と体が解放されていくような感覚だった。隣にいる沙羅の髪が、汗で濡れて額に張り付いている。その顔は、最高の笑顔だった。
「ねえ、健太! もっと前行こ!」
沙羅が俺の腕を掴んで、さらに人混みの奥へと進んでいく。俺たちは、モッシュの渦の中に飛び込み、周りの人々と体をぶつけ合いながら、一心不乱に踊った。汗と熱気が混じり合い、Tシャツはぐっしょりと濡れた。
音楽が最高潮に達すると、俺と沙羅は顔を見合わせて叫んだ。
「最高!」
その瞬間、俺は沙羅の手を強く握りしめた。沙羅も、俺の手を握り返し、そのまま繋いだ手は離れることがなかった。周りの人々の熱気と、音楽の高揚感が、俺たちの距離を急速に縮めていく。
夕暮れ時になると、空には茜色のグラデーションが広がり、ステージの照明がより一層幻想的に輝き始めた。俺たちは、少し離れた芝生の上に座り、疲れた体を休めていた。
「ねえ、健太。今日、誘ってくれてありがとう。めちゃくちゃ楽しい!」
沙羅が俺に寄りかかり、満面の笑みで言った。沙羅の体温が、俺の腕からじんわりと伝わってくる。
「俺もだよ。沙羅と一緒だから、こんなに楽しいんだ」
俺は素直な気持ちを伝えた。沙羅の頭をそっと撫でると、沙羅は気持ちよさそうに目を閉じた。
「ねえ、健太。この後どうする?」
沙羅が上目遣いで俺の顔を見上げた。その瞳は、何かを期待しているように潤んでいた。フェスの高揚感と、アルコールのせいだろうか。俺の心臓は、激しく脈打っていた。
「…この後、もう少し一緒にいたいな」
俺は震える声で言った。沙羅は何も言わず、俺の体をさらに密着させた。その行動が、俺への「イエス」だと分かった。
俺たちは、フェス会場を後にして、近くのホテルへと向かった。ホテルに着くと、沙羅は少しだけはにかんだような表情で、俺の腕を掴んだ。
部屋に入ると、沙羅はソファに座り、俺の顔を見つめた。
「健太…」
沙羅の声は、フェス会場での弾けるような声とは違い、どこか甘く、そして少しだけ不安を含んでいるように聞こえた。
俺は沙羅の隣に座り、その手を握った。沙羅の手は、フェスの熱気で少し汗ばんでいたが、俺の手にそっと触れると、すぐに馴染んだ。
「沙羅…」
俺は沙羅の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけた。沙羅は目を閉じ、俺のキスを受け入れた。唇が触れ合った瞬間、全身に電気が走ったような衝撃が走った。沙羅の唇は、少しだけ塩味がして、甘かった。
キスは深く、そして情熱的だった。フェスでの高揚感が、そのまま俺たちの体の中に残っているようだった。沙羅の指が、俺のTシャツの裾を掴む。その指先は、微かに震えていた。
俺たちは、互いの存在を確かめ合うように、何度も唇を重ねた。そして、ゆっくりと、しかし確実に、互いの服を脱がせていった。肌と肌が触れ合うたびに、熱が全身を駆け巡る。沙羅の吐息が、俺の耳元で熱を帯びる。
「けんた…」
沙羅の甘い声が、俺の鼓膜を震わせた。俺は沙羅を抱きしめ、その華奢な体をベッドに横たわらせた。
夜は、更けていった。
翌朝、俺、遠山健太が目を覚ますと、沙羅は俺の腕の中で気持ちよさそうに眠っていた。その寝顔は、昨日までの弾けるような笑顔とは違い、穏やかで、まるで天使のようだった。
「ん…」
沙羅が小さく身動きをして、ゆっくりと目を開けた。俺と目が合うと、沙羅は少し照れたように微笑んだ。
「おはよう、健太」
「おはよう、沙羅」
俺は沙羅の髪を撫で、額にキスをした。沙羅の体が、俺の温もりに包まれるように、さらに密着してきた。
「身体、しんどくない?」
俺が尋ねると、沙羅は小さく首を振った。
「大丈夫…それより、お腹空いた」
沙羅の言葉に、俺は思わず笑ってしまった。昨日のフェスで、相当体力を使ったのだろう。
「よし、じゃあ何か食べに行こうか。何が食べたい?」
「んー…パンケーキ!」
沙羅の即答に、俺はまた笑ってしまった。
俺たちは、ホテルをチェックアウトし、近くのカフェでパンケーキを食べた。焼きたてのふわふわなパンケーキに、たっぷりの生クリームとフルーツ。沙羅は目を輝かせながら、あっという間に平らげてしまった。
「美味しいー! 健太も食べる?」
沙羅がフォークに刺したパンケーキを俺の口元に運んでくれた。俺はそれを受け取り、甘いパンケーキを頬張った。
「うん、美味しい」
俺たちは、パンケーキを食べながら、昨日のフェスの話で盛り上がった。あのバンドが最高だったとか、あの曲で泣きそうになったとか。共有する体験が、俺たちの絆をより一層深めていくようだった。
カフェを出て、俺たちは街をぶらぶらと歩いた。ウィンドウショッピングをしたり、ゲームセンターでUFOキャッチャーをしたり。まるで、ずっと前から付き合っていたカップルのようだった。
「ねえ、健太。今度、どこか旅行行かない?」
沙羅が突然、俺に提案した。
「旅行? いいな! どこ行きたい?」
「んー…海とか、温泉とか! なんか、ゆっくりできるところがいいな」
沙羅の言葉に、俺は胸が高鳴った。この子となら、どこへ行っても楽しいだろう。そんな確信があった。
「よし、じゃあ今度、計画立てよう!」
俺が言うと、沙羅は嬉しそうに飛び跳ねた。
その日の夜、沙羅を家まで送った後、俺は自分の部屋に戻った。スマホを開くと、藤井拓也からメッセージが届いていた。
『健太、今週末、美里と俺の部屋で映画鑑賞するんだ。よかったら、お前も来ないか?』
拓也からのメッセージに、俺は少し驚いた。拓也が、こんなに早く美里を部屋に呼ぶなんて。俺も負けていられないな、と思った。
『いいな! 俺は今週末、沙羅と旅行の計画立てるんだ!』
俺はそう返信した。拓也からすぐに返信が来た。
『まじか! お前もなかなかやるな! お互い、頑張ろうな!』
拓也とのメッセージのやり取りを終え、俺はベッドに倒れ込んだ。天井を見上げながら、沙羅との出会いを振り返る。フットワークの軽さから始まった関係。だけど、今はもう、それだけじゃない。沙羅との出会いは、俺にとって、新しい世界を広げてくれるものだと感じていた。
俺、藤井拓也は、美里を自分の部屋に迎える準備をしていた。部屋を掃除し、美里が好きそうな映画をいくつかピックアップし、飲み物やスナックも用意した。完璧だ。
インターホンが鳴り、俺は胸の高鳴りを抑えながらドアを開けた。
「美里!」
「たくやさん!」
美里は、少しはにかんだような笑顔で立っていた。その手には、可愛らしい紙袋が握られている。
「これ、よかったら…」
美里が差し出してくれた紙袋の中には、手作りのクッキーが入っていた。
「わ、ありがとう! 嬉しいな」
俺は美里を部屋に招き入れた。美里は、少し緊張した面持ちで、ゆっくりと部屋を見回した。
「なんか、たくやさんらしい部屋ですね」
美里が言うと、俺は照れたように笑った。
「そうかな? まあ、男の一人暮らしだから、あんまり洒落てないけどな」
「そんなことないです! なんだか、落ち着きます」
美里の言葉に、俺はホッとした。
俺たちはソファに並んで座り、美里が作ってきてくれたクッキーを食べた。手作りのクッキーは、素朴で優しい味がした。
「美味しいな、これ」
俺が言うと、美里は嬉しそうに微笑んだ。
「よかったー! 実は、ちょっと自信なくて…」
「そんなことないよ。美里が作ってくれたってだけで、最高に美味しいよ」
俺の言葉に、美里の頬が少し赤くなった。
その後、俺たちは一緒に映画を観た。美里が選んだのは、温かい人間ドラマだった。映画の途中で、俺は美里の肩にそっと手を回した。美里は、俺の体に寄りかかるように、頭を俺の肩にもたれかけた。
映画が終わると、部屋には静寂が訪れた。美里の寝息が、俺の耳元で聞こえる。俺は、美里の柔らかな髪をそっと撫でた。
「美里…」
俺が囁くと、美里はゆっくりと目を開けた。その瞳は、何かを求めているように潤んでいた。
俺は美里の顔を近づけ、ゆっくりと唇を重ねた。昼間の優しいキスとは違い、そこには情熱と、深い愛情が込められていた。美里も、俺のキスに応えるように、ゆっくりと手を俺の首に回した。
「たくやさん…」
美里の甘い声が、俺の理性を麻痺させる。俺は美里を抱きしめ、そのままベッドへと向かった。
カーテンの隙間から差し込む月明かりが、俺たちの体を優しく照らす。美里の柔らかな肌が、俺の体に密着する。互いの吐息が、熱を帯びて混じり合う。
「愛してる…美里」
俺は美里の耳元で囁いた。美里は、俺の言葉に応えるように、さらに強く俺を抱きしめた。
その夜、俺たちは、互いの存在を深く、深く確かめ合った。ただの肉体的な触れ合いではない。そこには、互いを想い合う気持ちと、未来への希望が詰まっていた。
藤井拓也と大西美里が愛を育む一方で、遠山健太と吉田沙羅の関係も、急速に深まっていた。
「ねえ、健太! 温泉、どこがいいかなぁ?」

沙羅がスマホの画面を俺、遠山健太に見せながら、目を輝かせた。二回目のデートで約束した旅行の計画は、着々と進んでいた。俺たちは、週末の度にカフェに集まり、旅行雑誌や温泉の情報を片手に、行き先を話し合った。
「うーん、やっぱ露天風呂は欲しいよな。あと、美味しい地元のものとか…」
俺がそう言うと、沙羅は「それな!」と大きく頷いた。沙羅との時間は、常に笑いと発見に満ちていた。彼女の好奇心旺盛なところや、何事にも全力で楽しもうとする姿勢が、俺の心を明るくしてくれた。
「あ、ここどう? 海の近くで、新鮮な魚介が食べられるらしいよ!」
沙羅が指差したのは、少し離れた海沿いの温泉地だった。写真に映る、水平線に沈む夕陽と、露天風呂の湯気。想像しただけで、心が浮き立つようだった。
「おお! いいじゃん! ここにしよう!」
俺の即答に、沙羅は満面の笑みを浮かべた。旅行の計画を立てるたびに、俺たちの絆は強くなっていった。フットワークの軽さで始まった関係は、いつの間にか、互いを深く理解し、信頼し合う関係へと変化していた。
そして、旅行当日。俺たちは、朝早くから電車に乗り込み、一路、海沿いの温泉地へと向かった。車窓から流れる景色を眺めながら、俺は隣に座る沙羅の横顔を見つめた。沙羅は、遠足前の子供のように、目を輝かせながら外の景色を眺めている。
「沙羅、楽しみだな!」
俺が言うと、沙羅は「うん!」と大きく頷いた。その笑顔を見るだけで、俺の心は満たされた。
温泉地に到着し、旅館にチェックインした俺たちは、早速、旅館の近くの海岸へと向かった。澄み切った青い空と、どこまでも広がる水平線。波の音が、心地よく耳に響く。
「わぁ…! 海だー!」
沙羅が子供のように走り出し、波打ち際で何度もジャンプした。その無邪気な姿に、俺はまた笑顔になった。俺も裸足になって波打ち際を歩き、冷たい海水を足に感じた。
「ねえ、健太! あそこにカニいる!」
沙羅が指差す方に目をやると、小さなカニが岩の隙間に隠れているのが見えた。俺たちは二人で、カニを見つける競争をしたり、綺麗な貝殻を探したり。まるで、昔からの友達のように、他愛もない時間を過ごした。
夕食は、旅館の個室で、新鮮な魚介の会席料理をいただいた。目の前に並べられた、色とりどりの海の幸に、沙羅は目を輝かせた。
「うわー! 美味しそう!」
刺身や焼き魚、煮付けなど、どれもこれも絶品だった。特に、獲れたての伊勢海老の刺身は、プリプリとした食感と、濃厚な甘みが口の中に広がり、俺も沙羅も感動の声を上げた。
「これ、本当に美味しいね、健太!」
沙羅が満面の笑みで言った。沙羅の喜ぶ顔を見ていると、俺も自然と幸せな気持ちになった。美味しい料理と、心地よい空間。そして、隣には愛しい人がいる。これ以上の幸せはない、と思った。
食事を終え、俺たちは大浴場へと向かった。露天風呂からは、満点の星空が見えた。湯船に浸かりながら、沙羅と他愛もない話をした。温かい湯が、一日の疲れを癒してくれる。
「健太、今日、本当に楽しいね」
沙羅が湯船の縁に頭を乗せ、夜空を見上げながら言った。その声は、心からリラックスしているように聞こえた。
「ああ、楽しいな。沙羅と一緒だからだよ」
俺は沙羅の髪をそっと撫でた。沙羅は気持ちよさそうに目を閉じ、俺の手に頭を擦り付けた。