恋愛ストーリー

隣に君がいる、それだけで 最終章

窓の外には、満月が輝き、俺たちの新しい未来を、優しく照らしているようだった。

二人での生活が始まって、俺たちの日常は、以前にも増して充実したものになった。朝は、友子さんが淹れてくれるコーヒーの香りで目覚める。まだ眠そうな顔でキッチンに立つ彼女の姿は、俺の心を温かくした。朝食は、簡単なものでも、友子さんと一緒に食卓を囲むだけで、一日が明るく始まる気がした。温かい蒸気が立ち上るマグカップを両手で包み込み、友子さんの顔をちらりと見ると、彼女もまた俺の顔を見てにこりと笑った。その瞬間、ああ、俺は本当に幸せだ、と心から思った。

俺が大学へ、友子さんが職場へ。それぞれの場所で一日を過ごし、夜になれば、またこの部屋で合流する。友子さんが俺より先に帰宅している日は、玄関を開けた瞬間に部屋から漂う夕食の匂いに、心が躍った。完璧な料理ではないかもしれないが、彼女が俺のために作ってくれたという事実が、何よりも嬉しかった。時折、焦げ付いた香りや、少し塩辛い味付けの時もあったが、それもまた、友子さんの可愛らしい一面だと、俺は愛おしく感じていた。

ある日、友子さんが、照れくさそうに俺に言った。リビングで、俺が大学の課題に取り組んでいる傍らで、友子さんがスマホをいじっていた時のことだ。

「ねえ、健吾くん。私、今度、料理教室に通ってみようかなって思ってるんだけど…」

その言葉に、俺は驚き、そして感動した。俺のために、もっと料理を上達しようとしてくれているのだ。彼女の謙虚な気持ちと、健気な努力が、俺にはたまらなく愛おしかった。

「本当!?すごくいいと思う!友子さんなら絶対上達するよ!俺、全力で応援するし、試食担当は任せて!」

俺が満面の笑顔でそう言うと、友子さんは、嬉しそうに微笑んだ。その頬が、ほんのり赤らんでいる。その日から、友子さんは、仕事の合間を縫って料理教室に通い始めた。毎週、楽しそうに「今日はこれを作ったよ!」と報告してくれる彼女の姿は、俺の日常に新しい彩りを加えてくれた。週末には、習ってきたばかりの料理を、俺に振る舞ってくれる。少しずつ上達していく彼女の腕前を見るのも、俺の楽しみの一つになった。時には、味見をして「うん、これはお店の味だね!」と冗談を言うと、友子さんは「もう!健吾くんったら、また大げさなんだから!」と笑いながらも、どこか誇らしげな顔をしていた。

俺も、大学の卒業が近づき、社会人としての生活が目前に迫っていた。内定をもらった企業での研修が始まったり、卒業論文の執筆に追われたりと、忙しい日々を送っていた。新しい知識を吸収することの楽しさと、同時に、社会に出ることへの漠然とした不安が入り混じる。そんな中でも、友子さんは、常に俺のことも、気遣ってくれた。

「健吾くん、ちゃんとご飯食べてる?顔色、少し疲れてるみたいだよ」

「今日は論文進んだ?肩、凝ってない?」

彼女の優しい言葉が、俺の心を癒やしてくれた。俺は、友子さんの存在に、どれだけ支えられているだろう、と改めて実感した。彼女の存在がなければ、この忙しい日々を乗り越えるのは、もっと困難だっただろう。

ある冬の夜。二人でリビングのソファーに座り、ブランケットをかけてテレビを見ていた。外は、粉雪が舞い始めている。窓の外をぼんやりと見上げると、街灯の光に照らされた雪の粒が、キラキラと舞い落ちていた。暖房の効いた部屋で、友子さんの温もりを感じながら過ごす時間は、何よりも安らぎだった。彼女の柔らかな体温が、俺の隣からじんわりと伝わってくる。

友子さんが、俺の腕にそっと頭を乗せた。その柔らかな髪が、俺の腕に触れる。シャンプーの甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐった。

「ねえ、健吾くん」

友子さんの声は、少しだけ眠そうな響きを帯びていた。微かに甘えるような声が、俺の耳に心地よく響く。

「ん?」

俺は、彼女の頭を優しく撫でながら応じた。テレビの音が、遠くで小さく聞こえる。

「私、ずっと、健吾くんと一緒にいたいな。どんな時も、健吾くんの隣で笑っていたい」

その言葉に、俺は、胸が締め付けられるような、温かい感情に包まれた。俺も、同じことを思っていたからだ。彼女の言葉に、確かな未来の形が見えた気がした。言葉にならないほど、深く、強い愛情が、俺の心に満ちていく。

俺は、友子さんの頭を優しく撫で、その髪にキスを落とした。彼女の髪が、ふわりと香る。

「俺もだよ、友子さん。ずっと、一緒にいようね。どんなことがあっても、俺が友子さんを守るから」

俺たちの間に、静かで温かい時間が流れる。この人を、一生大切にしよう。この人と、未来を築いていこう。そう、心に誓った。結婚という言葉が、具体的なイメージとして、俺の脳裏に浮かび上がった。温かい家庭、子供たちの笑顔、そして、白髪になっても手を取り合って歩く二人。

俺たちの新しい生活は、まだ始まったばかり。これから先、楽しいことばかりではないかもしれない。社会人としての責任、家庭を築くことの重圧、そして、予期せぬ困難や試練も、きっと待ち受けているだろう。それでも、俺たち二人なら、どんなことでも乗り越えられる。互いに支え合い、愛し合いながら、新しい日々を歩んでいける。

窓の外では、雪がしんしんと降り続いていた。部屋の中には、温かい愛と、希望が満ちている。友子さんの柔らかな寝息が、俺の耳に心地よく響く。俺は、彼女の寝顔をそっと見つめ、その手を取り、指を絡めた。小さな、けれど確かな温もりが、俺の指先から伝わってくる。彼女の全てを包み込みたい、と心から願った。

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