【軌跡】

甘く疼く傷痕 その1

※ストーリーに登場する全ての人物名は仮名です。

第1章:母の不在と、現れた三人の異邦者

あれは、俺が小学生の頃までさかのぼる。

大好きだった母が突然いなくなった・・・。

後で聞いた話では、他に男ができて蒸発したらしい。

親父は昔から根っからのクズで、酒を飲んでは母に手をあげていた。
そんな親父に母は愛想を尽かし、よそに居場所を求めたんだと思う。

今となっては理解も出来るが、当時の俺には「母に捨てられた」という事実だけが、消えない傷として深く刻まれていた。

中学生になり、1学期のある日。

学校から帰ると、親父が知らない女三人とはしゃいでいた。

一人は母より少し上の年齢、
残りの二人は俺より少し年上に見えた。

親父が俺を見るなり、

「おい、修太。ちょっと来い」

と手招きをする。

「・・・何?」

困惑しながら親父の前に行くと、奴は言い放った。

「今度、この人と結婚する。お前の新しい母親と、姉貴たちだ」

意味が解らなかった。

(は……?結婚……?
母さんはどうすんだよ……)

茫然とする俺に、継母となる女が声をかけてくる。

「私、幸(さち)っていうの。よろしくね、修太ちゃん!」

(なんだ、あの爪……)

派手なデコレーションが施された長い爪が、照明を反射してギラついている。

大好きだった母とは似ても似つかない、品を欠いた印象。

おまけに服も、身体のラインを強調するような露出の多い格好で、いかにも親父が好みそうな女だった。それに・・・

(俺を値踏みするようなあの目つき……)

嫌悪感に苛まれながら、

「どうも……」

とだけ答える。

「あ、あたし、未菜(みな)」

長女だというその女も、派手なメイクに薄着という、
まるで夜の街からそのまま来たような格好をしていた。

彼女もまた、俺を品定めするような視線を向けてくる。

(なんだよ……こいつら……)

異質な雰囲気と不躾な視線に、
俺の心は強く拒絶反応を示していた。

「……はい」

「よっ!うちは香菜(かな)。よろしくねー!」

次女の香菜は、さらに輪をかけて落ち着きがなかった。

丈の短すぎるスカートで椅子に座り、無造作に足を組んでいる。
その不作法な振る舞いや、挑発的ともとれる派手な装いに、俺は吐き気すら覚えた。

(こいつもこいつ、節操がない……)

「はぁー……」

俺は思わずため息をついた。

すると親父が、

「なんだよ、嬉しくねーのか?」

と抜かしやがる。

本心を悟られまいと、俺はとっさに誤魔化した。

「……違うよ。香菜ねぇちゃん、行儀が悪いよ。服が乱れてる」

気が付いた香菜は、

「やだー、ごめんね修太ちゃん。中学生には刺激が強すぎたかな?フフッ」

と、的外れな笑みを浮かべて身なりを整えた。

(お前に興味なんてねぇんだよ……)

俺は心の中で毒づき、言葉を飲み込んだ。

「カッカッカッ、修太にはまだ早ぇーな!」

楽しそうに笑う親父と、それに同調する三人。

(面白くねーんだよ……)

俺はただ、この状況が過ぎ去るのを耐えていた。

「よし、じゃあ出かけるか。幸、行くぞ」

親父は立ち上がると、継母の腰に手を回して引き寄せた。

「修太。俺は今から出かけるからよ。家のことと姉貴たちのこと、頼むわ」

締まりのない顔で言う親父に、継母も

「もう、修太ちゃんの前で……」

と、満更でもない様子で応える。
二人はこそこそと耳打ちし合いながら、
家を出ていった。

(勝手にしろよ、エロ親父が……)

ふと姉たちに目をやると、
彼女たちは我関せずといった風で、
それぞれ携帯電話をいじり始めていた。

(こいつらも放っておこう……)

俺は制服を着替えるため、逃げるように自分の部屋へ向かった。

夜の八時。
お腹の虫が鳴り、俺はリビングへ向かった。

どうやら俺が部屋にいる間に、姉二人も出かけてしまったらしい。
親父も帰ってくる気配はなく、家の中は静まり返っていた。

(冷蔵庫の余り物で、何か作るか……)

一人キッチンに立ち、簡単な食事を作って食べる。

自分の味付けだから不味くはない。
けれど……。

「母さん、今どうしてるかな……」

ふと、幸せだった頃の記憶が蘇る。

(母さんのご飯が食べたい……)

暗い部屋で、自然と涙が溢れ、止まらなくなった。

第二章:脱衣所の罠、そして地獄の始まり

継母や義姉たちと住むようになって、しばらくしたある日のことだ。

その日は学校が休みで、俺は友達と野球をして汗をかいて帰宅した。

家には親父も義姉たちもおらず、
リビングでは継母が一人でテレビを見ていた。

「・・・・」

俺の帰宅に気づいた継母が、
明るい声で言う。

「あら、修太ちゃん。おかえり」

(俺にとっちゃ、
あんたは家族でも何でもねーんだよ……)

心の中で毒づき、
自分の部屋へ向かおうとしたその時だった。

ゾクッ……。

背中に、蛇に睨まれたような、得体の知れない視線を感じた。

振り返って様子を伺うと、
俺を見つめる彼女の瞳には、
これまで見たこともないような異様な色が宿っていた。

俺は逃げるように脱衣所へ駆け込んだ。

シャァァァァーーー

シャワーを浴びながら、あの妙な視線のことを反芻する。

(あいつのあの目は何なんだ……気持ち悪い)

邪念を振り払うかのように、
俺はシャワーの勢いを強めた。

入浴を終え、脱衣所で体を拭いていた、
その時だった。

ガラッ……。

「えっ!? 鍵が開いてる・・・!!」

そう思ったが、もう遅かった。

継母が脱衣所に踏み込んできて、
俺と目が合った。

俺は咄嗟に身を隠したが、彼女の視線はすでに俺の全身を舐めるように捉えていた。

本当の母親なら、謝ってすぐに
扉を閉めるはずだ。
だが、継母は違った。

「へぇ……修太ちゃん、意外と大人なのね……」

聞いたこともないような、粘りつくような声。
彼女は躊躇なく脱衣所の中へと入り込んできた。

「な、なんだよ……」

恐怖で動けずにいると、
彼女は強引に俺の手を掴み、
そのまま俺の自室へと引きずっていった。

カチャリ、と部屋の鍵をかける音が響く。
彼女は迷いのない手つきで、自らの装いを解いていった。

「おやすみなさい、の前に……」

恍惚とした表情を浮かべた彼女に押し倒され、俺は逃げ場を失った。

何が起きているのか理解できなかった。

恐怖と困惑でパニックになりながらも、本能的な反応に抗えない。

彼女の執拗な接触と、部屋に充満する甘ったるい香りに、俺の感覚は麻痺していく。

(何をしてるんだ、この人は……)

全身を駆け巡る、これまで経験したことのないような強烈な熱。

パニックは深まるばかりなのに、意識とは裏腹に、体は彼女の要求に翻弄されていく。

彼女は俺の上に跨り、支配的な笑みを浮かべながら、俺の理性を粉々に砕いていった。

「すごいわ……。ねぇ、もっと強く……」

彼女に促されるまま、俺は自分を見失い、
ただただ押し寄せる快感と不快感の濁流に身を任せるしかなかった。

目の前で激しく身をよじる継母。
彼女の肌が赤みを帯びていく。
やがて、体の中の熱が限界を迎え、堰を切ったように溢れ出した。

「……っ!!」

何かが終わった瞬間、
彼女は俺に強くしがみつき、
勝利を確信したような声を漏らした。

しばらくして、彼女は満足げな表情で俺を見つめ、耳元で囁いた。

「最高だったわ。あの人より、ずっと……」

不敵な笑みを残し、彼女は俺の意識が遠のくのを眺めていた。

……次に目を覚ました時、俺は自分のベッドの上にいた。

体の中に残る、あの熱くて、ひどく重苦しい感触。

そして、継母のあの歪んだ笑顔が、瞼の裏に焼き付いて離れない。

跳ね起きようとしたが、体は鉛のように重く、動けなかった。

家の中は静まり返っていた。

皆は出かけたのか、それともまだ近くにいるのか。確かめる勇気も湧かなかった。

ただ、一人でいたかった。
この悪夢のような出来事を、どうにかして整理したかった。

だが、頭の中はひどく混乱していた。

継母に翻弄されたこと。
体が勝手に反応してしまったこと。
そして、彼女が最後に放った、親父と比較するような蔑みの言葉。

吐き気が込み上げてきた。

俺はトイレに駆け込み、胃の中のものをすべて吐き出した。
苦しくて、情けなくて、悔しくて、涙が止まらなかった。

母さんに捨てられた時とは違う、もっと暗くて、
ドロドロとした絶望が、俺の心を黒く塗り潰していた。

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