恋愛ストーリー

深淵のポートレート 第5章

引き裂かれる心


菜々が悠馬のオフィスに入ると、ドアが音もなく閉まった。

カチリ、という微かな音が、菜々の心臓に鉛のように重く響く。

室内に差し込む西日が、悠馬の顔に陰影を作り出し、普段よりも一層、彼の表情を読みにくくしていた。

菜々の心臓は、警鐘のように激しく鳴り響いていた。

悠馬の視線が、まるで鋭い刃物のように菜々の全身を貫く。その視線は、菜々の肌を焼き、心を凍らせる。

「菜々。最近、随分と生き生きしているじゃないか」

悠馬の声は、穏やかな響きを装っていたが、その言葉の裏には、冷たい怒りが渦巻いているのを菜々は感じ取った。

彼の言葉は、菜々と隼人の間に芽生え始めたかすかな繋がりを、すべて見透かしているかのように、菜々の心を深く抉る。

「…そんなことはありません」

菜々は、目を逸らして答えた。

その視線は、悠馬のデスクに置かれた書類の山に向けられていた。

彼の視線に捕らえられるのが、怖かった。

悠馬の存在そのものが、菜々にとっての重圧だった。

「ほう?そうか。だが、俺にはそうは見えないな」

悠馬はゆっくりと椅子を立ち上がり、菜々の前に立った。

彼の影が、菜々の身体を覆い隠す。

菜々の全身に、ゾクリと悪寒が走る。悠馬の指が、菜々の顎を掴み、無理やりその顔を上向かせた。

菜々の瞳が、不安と恐怖で揺れる。

その視線が悠馬の瞳と絡み合った瞬間、菜々の心臓は飛び跳ねた。

「お前は、俺の隣で輝く女だ。他の男と馴れ合うなど、許さない」

悠馬の言葉は、氷のように冷たく、菜々の心を凍りつかせた。

彼の指が、菜々の唇をゆっくりと撫でる。

その触れ方は、甘く、そして同時に恐ろしいほどに支配的だった。

菜々の身体は、彼の指が触れるたびに、電気に打たれたように震えた。

唇に残る悠馬の指先の感触が、菜々を一層怯えさせる。

「俺は、お前の全てを知っている。お前がどんな時に俺を求め、どんな時に抗えないか…全てだ」

悠馬は、菜々の耳元で囁いた。

彼の吐息が、菜々の耳朶をくすぐる。

菜々の身体は、本能的に彼に反応し、その肌が熱を帯びていく。

悠馬の指が、菜々のブラウスのボタンに触れ、一つ、また一つと外していく。

カチリ、カチリと、ボタンが外れる音が、静かなオフィスに響き渡る。

それはまるで、菜々の心が解放されていく音のようであり、同時に、彼女がさらに深く囚われていく音のようでもあった。

ボタンが全て外れると、ブラウスがはだけ、菜々の白い肌が露わになる。

オフィスに差し込む西日が、その肌を淡く照らし出す。

悠馬の視線が、菜々のデコルテから胸へと滑り落ちる。

彼の瞳には、どす黒い欲望の炎が燃え盛っていた。

「や、めて…悠馬…さん」

菜々は、か細い声で抵抗したが、その手は悠馬の腕に触れることさえできなかった。

彼の支配は、あまりにも強固だった。

悠馬の指が、菜々の柔らかな胸を覆い、ゆっくりと揉みしだく。

弾力のある感触が、悠馬の指に伝わる。

菜々の身体は、電気に打たれたようにピクリと跳ねた。

胸の奥から、熱いものがこみ上げてくる。

それは、羞恥と、そして抗えない快感の混じり合った感情だった。

菜々の喉から、小さな喘ぎ声が漏れる。

「さあ、菜々。お前の身体で、俺を満足させてみろ」

悠馬の声は、どこまでも冷酷だった。

彼の唇が、菜々の首筋に吸い付く。

チュッ、と湿った音が静かなオフィスに響いた。

菜々の全身に、ゾワゾワと鳥肌が走る。

彼女の身体は、悠馬の触れる場所全てに反応し、熱を帯びていく。

悠馬の舌が、菜々の耳裏を這う。

菜々の背筋に、熱い電流が走る。

悠馬は、菜々を抱き上げ、デスクの上へと座らせた。

菜々のスカートが捲り上がり、その白い太ももが露わになる。


悠馬の視線が、菜々の下半身に釘付けになる。

彼の指が、スカートの中に滑り込み、菜々の内腿を撫でる。


菜々の身体が、ビクリと震える。彼女の息が、荒くなる。

「っ…んぅ…」

菜々の口から、喘ぎ声が漏れる。

悠馬の指が、さらに深く、菜々のデリケートな部分へと触れる。


菜々の身体は、完全に悠馬の支配下に置かれていた。

羞恥と、そして抗えない快感が、菜々の全身を駆け巡る。


菜々の指が、悠馬の肩を掴み、爪が食い込むほどに力を込めた。

その痛みさえも、悠馬にとっては心地よかった。


彼は、菜々の髪を掴み、その顔を覗き込んだ。

瞳は潤み、頬は紅潮している。

その姿は、悠馬の支配欲をさらに満たしていく。

「どうした、菜々。そんなに強がって…俺に求められているのが、嫌か?」

悠馬の低い声が、菜々の耳元で囁かれた。

彼の身体が、菜々の身体に密着し、お互いの熱が伝わり合う。


菜々の身体の曲線、その全てが悠馬の欲望を刺激し、彼を狂わせた。

荒々しい呼吸が、オフィスに響き渡る。


菜々の喘ぎ声が、その音に混ざり合う。

彼女の理性は薄れ、本能だけが残った。


悠馬は菜々から感じる快感を貪りながら、菜々の中で果てる。


「あぁ・・・。中で・・・、あぁ・・・」


快感に悶え身体をよじる菜々。


「そうだ、それでいいんだ。菜々・・・」


悠馬は菜々を抱きしめながら、支配欲を満たしていた。

その頃、杉本隼人は、菜々のことが気になり、仕事の途中で彼女のデスクを訪れた。

しかし、菜々の姿はそこになかった。

まさか、と嫌な予感が隼人の脳裏をよぎる。

悠馬のオフィスからは、微かに物音が聞こえる。

それは、何かを擦るような、あるいは身体がぶつかるような、聞き慣れない音だった。

隼人の胸に、黒い感情が再び湧き上がってきた。

「くそっ…!」

隼人は、思わず拳を握り締めた。

悠馬が菜々に何をしているのか。

想像するだけで、隼人の全身の血が逆流するような感覚に陥った。

菜々を救い出したい。その思いが、隼人の心を支配していた。

だが、今の自分に何ができるのか。無力感が、隼人を苛む。

彼の掌に、爪が食い込むほどの痛みが走る。

一方、青山莉子は、その日の夜も悠馬からの連絡を待っていた。

スマホを何度も確認するが、悠馬からのメッセージは一向に来ない。

莉子の心に、深い不安が募っていく。

悠馬が、今、どこで何をしているのか。

菜々のことが、常に莉子の心を締め付けていた。

莉子は、悠馬のSNSを再び開いた。

そこには、先日一緒に食事をした時に悠馬が撮った、自分の写真がアップされている。

しかし、その写真のコメント欄には、見知らぬ女性たちからの甘いメッセージが溢れていた。

莉子の胸に、深い嫉妬が湧き上がってきた。

悠馬は、自分にとって特別な存在だと信じていたのに。

彼の言葉、彼の優しさが、全て嘘のように思えた。

「悠馬さん…どうして…私だけじゃダメなの…?」

莉子は、虚しく呟いた。

彼女は、悠馬の才能に惹かれ、彼が作り出す世界に魅了されていた。

しかし、彼が自分を本当に愛しているのか、それとも単なる気まぐれに過ぎないのか、常に疑念を抱いていた。

彼に捨てられることへの恐怖が、莉子を苦しめていた。

莉子の指が、無意識のうちに自分の太ももを撫でた。

悠馬に求められることでしか、自分の存在意義を見出せない莉子の悲しみが、そこに滲んでいた。

杉本隼人は、その夜もジムで汗を流していた。

サンドバッグを叩く彼の拳は、以前よりも強く、そして速くなっていた。

ミットが鈍い音を立てて揺れる。

彼の心の中で、悠馬への憎悪が、さらに深い根を張っていく。

菜々を救い出したい。その思いが、彼の身体を突き動かしていた。

「あいつを…許さない…!」

隼人の口から、低い唸り声が漏れた。

彼の瞳には、復讐の炎が宿っている。

菜々の疲れた横顔、そして悠馬の傲慢な態度。

全てが、隼人の怒りを増幅させていた。

筋肉が軋むほどの痛みも、彼にとっては心地よかった。

この痛みが、自分を突き動かす原動力となる。

深夜、悠馬のオフィスから出てきた菜々は、憔悴しきっていた。

その瞳には生気がなく、足取りも重かった。

彼女の身体からは、悠馬の香水の匂いが、強く漂っている。

それは、悠馬の支配の証のようだった。

ブラウスのボタンは、歪に閉められていた。

ジムの帰り、偶然、その場を通りかかった隼人は、菜々の姿を見て、衝撃を受けた。

彼の胸に、激しい怒りがこみ上げてくる。

悠馬への憎悪が、限界に達しようとしていた。

「坂井さん…!」

隼人は、菜々に駆け寄ろうとした。

しかし、その一歩を踏み出すことができなかった。

悠馬の影が、あまりにも大きすぎたのだ。

悠馬が、どこからか自分を見ているのではないかという恐怖が、隼人の足を止めさせた。

菜々は、隼人の存在に気づくこともなく、そのままオフィスを後にした。

その背中は、あまりにも小さく、今にも消えてしまいそうに見えた。

隼人は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

彼の心に、無力感と絶望が深く刻み込まれていく。

悠馬は、オフィスの窓から、去っていく菜々の後ろ姿を満足げに見下ろしていた。

彼の顔には、微かな笑みが浮かんでいる。

自分の支配が、揺るぎないものであることを再確認したかのように。

しかし、その裏では、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、それぞれの関係に亀裂が入り始めていた。

菜々の心は、悠馬と隼人の間で引き裂かれ、莉子の心は、悠馬の裏切りに傷ついていた。

そして、隼人の心には、悠馬への復讐心が、黒い炎となって燃え盛っていた。

この破滅的な関係が、さらに加速していく予感を、誰もが感じ始めていた。

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