再び、扉の鈴が鳴った。俺は、反射的にそちらに視線を向けた。そこに立っていたのは、信じられないことに、ミキだった。
「こんにちは、修太さん♪」
ミキは、修太に向かって、弾けるような笑顔を向けた。
その笑顔は、あの夜、修太に向けたものと同じ、親密な笑顔だった。
俺の耳が、カーッと熱くなるのが分かった。全身の血が、顔に集中していくような感覚に襲われた。
「あれ…?真輝人くん?」
ミキは、俺の姿に気づくと、驚いたような顔をした。その瞳は、俺を真っ直ぐに見つめている。俺は、言葉に詰まってしまった。
「あ!ミキちゃん!」
情けない声が、俺の口から漏れた。心臓が、まるでマラソン選手のように激しく鼓動を打つ。
「え…?真輝人くん、何でここにいるの…?」

ミキの問いに、俺は口ごもってしまった。どう説明すればいい?
修太とミキの関係を探りに来た、なんて言えるわけがない。俺の顔は、さらに赤くなっただろう。
「さくら、すまないが彼に説明してくれ。どうやら、僕と君の関係を疑っているようなんだ…」
マスターの言葉に、ミキは一瞬、戸惑ったような顔をした。
その表情は、どこか俺に申し訳なさそうに見えた。しかし、すぐにいつもの明るい笑顔に戻り、
「…あはは!真輝人くん。修太さんはね、私の命の恩人なの」
と、笑いながら言った。その声は、弾むように軽やかだった。命の恩人。
その言葉は、俺の胸に確かに響いた。俺の抱いていた嫉妬の感情は、少しだけ和らいだ。
もしかしたら、俺の考えすぎだったのかもしれない。胸の奥で、ホッと安堵の息が漏れた。
「そう、なんだ…」
俺は、安堵のため息を漏らしながら、相槌を打った。
ミキは、俺の横に座ると、マスターに
「修太さん、アイスレモンティーちょうだい♪」
と注文した。
その仕草は、まるで、家族に甘えるかのように自然だった。
「はいよ」
修太は、手際よくアイスレモンティーを作り始めた。
氷がグラスに触れる音が、カランカランと心地よく響く。ミキは、俺に向き直り、話し始めた。
「修太さんはね、私が昔、ホームレスになった時に出会って、部屋を探してくれて、私が再出発する時の手助けをしてくれた、おじさんなの」
その言葉に、俺の胸に抱えていた重苦しい塊が、少しだけ軽くなったような気がした。
命の恩人。おじさん。その言葉の響きが、俺の心を穏やかにしていく。俺の口元に、自然と笑みがこぼれた。
「はい、アイスレモンティー」
修太が、ミキの前にグラスを置いた。グラスから立ち上る、レモンと紅茶の爽やかな香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
「ありがと♪修太さん」
ミキは、グラスを受け取ると、ニコリと笑った。その笑顔は、曇り一つない、純粋な笑顔だった。
「それと、おじさんじゃない。お兄さんと呼びなさい」
修太が、冗談めかしてミキに言った。その声には、どこか優しい響きが込められていた。
「はーい♪お・じ・さん♪」
ミキは、わざとらしく返事をした。その声は、まるで子供のようだった。
「こーら」
修太は、困ったように笑っている。その表情は、俺が見たことのない、柔らかな表情だった。
「えへへw」
ミキの笑い声が、店内に響く。その和やかな場の空気が、俺の笑いを誘った。
少しだけ、修太への警戒心が薄れた気がした。彼は、悪い人間ではないのかもしれない。
その時、奥のBOX席にいた女子高生が、修太に声をかけた。
「修太さん。私、帰るね・・・」
女子高生は、立ち上がり、鞄を肩にかけた。
「じゃぁね、りかちゃん。ありがとね。気を付けて帰るんだよ」
修太は、優しく女子高生に声をかけた。その声は、まるで兄が妹に語りかけるかのような、温かい響きだった。
「うん。ありがと」
女子高生は、軽く頭を下げて、店を出て行った。
カランカラン…
女子高生が店を出た後、俺は立ち上がった。
(どうやら、俺の勘違いのようだ・・・)
もう、ここにいる必要はない。俺の胸の中の疑問は、解消された。
「じゃ、僕も帰ります。マスター、変なこと言って、どうもすみませんでした」
俺は、深々と頭を下げた。頬の熱は、まだ完全に引いていなかった。
「いいよ。気にしないで」
修太は、俺の言葉を遮るように言った。その声は、どこか突き放すような響きだったが、俺は気にしなかった。
「ありがとうございました。失礼します」
再び頭を下げ、俺は店を後にした。
カランカラン…
俺が店を出た後、店内に残された修太と咲良の間には、再び静寂が訪れた。
「…咲良。こうゆうことになるから、誤解されるような行動は取るなと前にも言ったろ?」
修太の声は、先ほどまでとは打って変わって、冷たく響いた。
その声には深い響きが込められていた。
「ごめんなさーい」
咲良は、まるで子供のように謝った。しかし、その声には、どこか甘えが混じっていた。
「ったく、反省の色が見えないな。そういう子にはお仕置きが必要だな…」
修太の言葉を聞いた咲良の顔が、カーッと赤くなる。
その表情は、ミキがパドローナで見せる顔とは全く違うものだった。
それは、まるで、修太に全てを委ねているかのような、そして、そのお仕置きを望んでいるかのような、そんな表情。
修太は、ゆっくりと店のドアに鍵をかけ、プレートを裏返した。
「closed」
ドアから踵を返し、咲良に近づく修太の足音が、店内に響き渡る。
「咲良…。こっちおいで…」
修太の声は、甘く、そして咲良にしか届かないような、妖しい響きを帯びていた。
「はい…、修太さん…」
咲良は、まるで糸に引かれるかのように、修太に引き寄せられていく。
修太は、咲良の手を取り、カーテンの仕切りを抜け、奥の部屋に消えていった。
「あぁ・・・ダメ・・・修太さん♡・・・イっちゃう♡・・・」
「ほら・・・、中に出すよ・・・咲良・・・」
「あぁーん♡♡」