りこさんとの日々は、まさに
幸福の体現だった。
太陽の柔らかな光が部屋に差し込む毎朝、
彼女の優しい口付けが俺を微睡みから
連れ出してくれる。
視界が開けると、そこにはいつも彼女の
穏やかな笑顔があった。
「おはよう、りこさん」
「おはよう、修太。さあ起きて!
朝ごはんにしましょう」
彼女の心のこもった手料理を味わい、
玄関で名残惜しげに熱い抱擁を交わす。
「はい、お弁当。頑張ってね」
「いつもありがとう、りこさん」
手渡された弁当の温もりを胸に、
俺は大学へと向かう。
彼女は午前中にパートをこなし、
帰宅後は掃除や洗濯、夕飯の仕度と家事を
切り盛りしてくれた。
その一つひとつの所作に、俺への
深い慈しみを感じずにはいられなかった。
そして夜、アルバイトを終えた俺を、
彼女の笑顔が迎えてくれる。
「ただいま、りこさん」
「おかえり、修太」
玄関で再び重なり合い、深く口付ける。
彼女の柔らかな唇が俺の渇望に応え、
その熱が全身にじんわりと広がっていく。
何度繰り返しても、この瞬間の甘美さが
色褪せることはなかった。
夕食を済ませると、狭い浴室で二人、
湯船に浸かる。
後ろから彼女のしなやかな体を
抱きしめると、滑らかな肌が俺の胸に
触れるたび、心地よい痺れが走った。
シャワーの音が二人の密やかな囁きを
包み隠していく。。。
湯気で上気したりこさんの首筋に
顔を埋めれば、石鹸の香りに混じって、
彼女自身の甘い匂いが俺を陶酔させた。
「んっ……」
思わず声が漏れると、彼女は「ふふ」と
愛らしく笑い、俺の腕の中で全身を
預けてくれた。
風呂上がりはリビングで並んで
テレビを眺める。
他愛もない話で笑い合い、CMの合間に
そっと唇を重ねる。
穏やかで、満ち足りた時間が流れていく・・・
「あっ……修太……」
不意に彼女が俺の顔を覗き込み、
愛おしそうに呟いた。
「修太、かわいい……」
不意打ちの言葉に、頬が熱くなる。
「急に言うなよ。恥ずかしいだろ」
彼女はいたずらっぽく笑っていた。
その屈託のない笑顔を見ることが、
俺は何よりの喜びだった。
その後、彼女は翌朝の仕度を、
俺は大学の課題をこなす。
別々の作業をしていても、時折目が合えば
はにかみ、短い接吻を交わす。
日常の些細な触れ合いが、俺たちの絆を
より強固なものにしていく実感があった。
そして夜、一つの布団に潜り込む。
今日一日、別々の場所で過ごした時間が
嘘のように、二人の体は磁石のように
引き寄せられた。
「ねぇ、修太。今日は、もっとじっくり
私を愛してね♡」
りこさんが挑発的な瞳で俺を見上げる。
俺は彼女の髪を指で梳きながら答えた。
「分かってるよ。今日は、ゆっくりと……ね」
俺は彼女の豊かな胸元に顔を埋めた。
柔らかな感触と芳香に、理性が溶けていく・・・
敏感な場所に触れると、彼女の体が
ビクッと震え、甘い声が漏れた。
「んっ……気持ちいい……」
指先で彼女の全身を丁寧になぞり、
肌の下に隠された熱を確かめる。
彼女の最奥が熱く疼いているのが、
手に取るように伝わってきた。
「あ、だめ……そんなにされたら……」
甘えたような拒絶が、かえって俺の情熱を
激しく煽った。
ゆっくりと、彼女の内側へと進んでいく。
熱く密接な空間が、俺を包み込むような
快感を与えてくれる。
「そう……これなの……
修太じゃなきゃ、だめなの」
切実な声が耳元で響く。
「そんなに求められたら、
すぐ限界がきちゃうよ……」
「いいの。修太、思い切り……。
私の中に、全部ちょうだい」
潤んだ瞳に誘われ、二人の鼓動は激しく共鳴した。
「あ、あっ……イクっ、イク!
ああぁ……っ!」
彼女の絶頂の叫びが部屋に響き渡る。
「俺も……! もう、だめだ!」
俺も同時に、己のすべてを
彼女の奥深くへと熱く解き放った。
「あったかい……、修太を感じるよ……」
彼女は俺の腕の中で、幸福そうに呟いた。
互いに満たされた心で、俺の腕枕の中で
彼女は眠りにつく。
その安らかな寝顔を見つめながら、俺も深い眠りに落ちる。
これまでの人生で、間違いなく一番幸せな
毎日を、俺は生きていた。。。
ピンポーン!
ある日曜日、大家さんの奥さんが
訪ねてきた。
突然の来客に、俺とりこさんは
顔を見合わせた。
ドアを開けると、そこには
穏やかな笑みを浮かべた奥さんが
立っていた。
「修太君、お休みのところごめんね。
りこちゃんはいるかい?」
「いますよ。ちょっと待ってください」
ベランダで洗濯物を干していた
彼女に声をかけると、
彼女は不思議そうに手を止めて
玄関へやってきた。
「おばさま、
いつもお世話になっております」
丁寧にお辞儀をする彼女を見て、
奥さんが目を細めた。
「りこちゃん、すっかり
顔つきが変わったね。綺麗になったよ。
修太君と上手くいっているようだね」
その言葉に、りこさんは頬を林檎のように
赤らめた。
その様子がたまらなく愛らしかった。
「修太君、りこちゃんのことを
大事にしているようだね。感心感心」
「いえ、それほどでも……」
俺も顔が熱くなるのを感じた。
りこさんは俺の顔を覗き込み、
「修太、かわいい……」
とはにかんでいる。
大家さんの前で冷やかされるのは、
どうにも気恥ずかしくてたまらない。
和やかな空気が流れる中、
俺は照れ隠しに話題を変えた。
「ところで、大家さん。
りこさんに用事があったのでは?」
「ああ、そうそう。うちは本来、
未婚の同居は認めていないんだけどね、
主人と相談して、お二人だけは特別に
認めようって話になったのよ」
予想外の言葉に、俺たちは驚きとともに
顔を見合わせた。
「ありがとうございます!」
大家さんは一枚の書類を差し出した。
そこには『家族構成証明書』と記されている。
「修太君。
夫の欄には、あんたの名前を書いておくれ」
書類を受け取ったりこさんは、
「ふふ、なんだか婚姻届みたい」
と嬉しそうに微笑んだ。
大家さんも冗談めかして、
「この際、結婚しちゃいなさい」と笑う。
りこさんは少し慌てて、
「いけません、おばさま。
修太はまだ学生なんですから」
となだめたが、大家さんは
「お似合いの二人だと思うけどねえ…」
と言い残し、風のように去っていった。
ドアを閉めた後、りこさんは
「もう、おばさまったら……」
と子供のようにむくれた。
その表情がどうしようもなく愛おしく、
俺は意を決して彼女を呼んだ。
「りこさん……」
「ん? なあに、修太?」
「俺、大学を卒業して社会人になったら、
りこさんと結婚したいと思ってる」
その言葉に、彼女の手から
書類がひらりと床に落ちた。
「修太……本気なの?」
「ああ、本気だ」
俺は彼女の手を強く握りしめた。
彼女の瞳から大粒の涙が溢れ出し、
その場に泣き崩れた。
俺は震える彼女を優しく抱きしめた。
「泣かないで。俺は笑っているりこさんが
一番好きなんだ。……僕はあなたと
ずっと一緒にいたい・・・。だから・・・」
「だから・・・、なに・・・?しゅうた・・・?」
涙声で彼女は俺に問いかける。
その声には、期待と不安が
入り混じっていた。
「りこさん・・・僕が社会人になったら
改めて言うけど、僕の妻になってください。僕はあなたと一緒に生きていきたい」
りこさんの瞳が大きく見開かれる。
そして、再び涙が溢れ出した。
「しゅうた・・・。ありが・・とう・・・。
私も・・・あなたと・・・生きて・・いきたい・・・。
だから・・・」
嗚咽で言葉が途切れ途切れになる彼女。
「だから・・・、なに・・・?りこさん・・・?」
俺は、彼女の言葉を促すように優しく問いかけた。
「私・・・を、あなたの・・・・妻・・・に・・
して・・・くだ・・・さい・・・」
柔らかな風が部屋を通り抜け、
カーテンを揺らした。
俺たちは熱い接吻を交わした。
涙の味が混じったその唇は、
この世の何よりも甘く、
確かな幸せの味がした。。。
心が落ち着いたところで、
二人で書類を埋めていく。
それは単なる事務手続きではなく、
俺たちの未来への第一歩のように
感じられた。
俺が記入を終え、彼女にペンを渡す。
彼女が書き込んだ名前は『中島凛子』
その凛とした美しい漢字に、
俺は改めて見惚れた。
しかし、生年月日の欄で
彼女の手が止まった。
「修太……言ってなかったね。私の年齢・・・」
「女性に年齢を聞くのは
失礼かと思ってたから…」
彼女の震える指先が記した生年月日を見て、俺は心の中で計算した。
彼女は俺よりも16歳年上だった。
一瞬の沈黙。彼女が不安げに俺を見つめる。
「……びっくりしたでしょ?
嫌いになった?」
正直に言えば、驚いた。
けれどそれは年齢そのものではなく、
16歳の差を感じさせない
彼女の圧倒的な美しさに対してだった。
「いや……。凛子さんがこの年齢で、
これほどまでに美しいことに驚いているよ。それに、俺は年齢で君を好きになったわけじゃない。凛子さんという人だから、好きになったんだ」
俺の言葉に、彼女の表情がぱっと明るく輝いた。
「嬉しい……。ありがとう、修太」
彼女が俺の頬に愛らしく口付けた。
「頬だけじゃ満足できませんw」
俺は少し悪戯っぽく笑い、
彼女の唇を再び奪った。
深く、長い接吻。
年齢の壁なんて、俺たちの前では
何の意味も持たなかった。
この腕の中にいる愛しい人を、
一生離さない。
オレンジ色の木漏れ日の中で、俺は静かに、けれど揺るぎない誓いを立てた。