部屋に戻ると、沙羅は少し照れたように、俺の顔を見上げた。
「健太…」
沙羅の甘い声が、俺の理性を揺さぶる。俺は沙羅を抱きしめ、ゆっくりと唇を重ねた。露天風呂で温まった体が、さらに熱を帯びていく。
「沙羅…」
俺は沙羅の髪に顔を埋めた。シャンプーの甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
俺たちは、互いの存在を確かめ合うように、何度も唇を重ねた。そして、ゆっくりと、しかし確実に、互いの服を脱がせていった。肌と肌が触れ合うたびに、全身に電流が走るような感覚。沙羅の吐息が、俺の耳元で熱を帯びる。
「けんた…もっと…」
沙羅の甘い声が、俺の欲望をさらに煽る。俺は沙羅を抱きしめ、そのまま布団に横たわった。
その夜、俺たちは、互いの体温を感じながら、中で果て、深く、深く愛し合った。そこには、言葉にならない感情と、未来への希望が詰まっていた。
翌朝、目が覚めると、沙羅は俺の腕の中で気持ちよさそうに眠っていた。その寝顔は、昨日までの活発な沙羅とは違い、穏やかで、まるで天使のようだった。
「おはよう、沙羅」
俺が囁くと、沙羅は小さく身動きをして、ゆっくりと目を開けた。俺と目が合うと、沙羅は少し照れたように微笑んだ。
「おはよう、健太」
俺は沙羅の髪を撫で、額にキスをした。沙羅の体が、俺の温もりに包まれるように、さらに密着してきた。
「体、痛くないか?」
俺が尋ねると、沙羅は小さく首を振った。
「大丈夫…」
俺は沙羅を抱きしめ、しばらくの間、そうしていた。この時間が、永遠に続けばいいのに、とさえ思った。
朝食を済ませ、俺たちは旅館をチェックアウトした。帰りの電車の中で、沙羅は俺の肩に頭をもたれかけ、静かに眠っていた。その寝顔を見ていると、俺の心には温かい感情が込み上げてきた。
沙羅との出会いは、俺にとって、人生を豊かにしてくれるものだと感じていた。フットワークの軽さで始まった関係は、もう、それだけではなかった。
「健太…」
沙羅が寝言で俺の名前を呼んだ。俺は思わず微笑み、沙羅の髪をそっと撫でた。この手を、もう二度と離したくない。そう強く思った。
藤井拓也と大西美里の関係は、順調に深まっていた。週末は、どちらかの家で過ごすことが多くなっていた。美里は、料理上手で、俺の好きなものをたくさん作ってくれた。俺は、そんな美里の手料理を食べるたびに、幸せを感じていた。
「たくやさん、これ、どうですか?」
美里が、出来立てのオムライスを俺の目の前に差し出した。ふんわりとした卵に、ケチャップで可愛らしいハートが描かれている。
「うわ、美味そう! いただきます!」
俺はスプーンで一口食べると、その美味しさに思わず目を見開いた。
「うん、美味しい! 美里、本当に料理上手だな!」
俺が褒めると、美里は照れたように笑った。
「よかったー! たくやさんが喜んでくれると、私も嬉しいです」
美里の笑顔は、俺の心を温かく包み込んでくれた。美里との生活は、俺にとって、かけがえのないものになっていた。
ある日の夜、俺は美里を抱きしめながら、静かに尋ねた。
「美里、俺と付き合って、どう思う?」
美里は俺の胸に顔を埋め、少し考えた後、ゆっくりと顔を上げた。
「…幸せです、たくやさん。こんなに、誰かのことを好きになったのは、初めてかもしれません」
美里の言葉に、俺の心臓は激しく音を立てた。美里も、俺と同じ気持ちでいてくれた。それが、何よりも嬉しかった。
「俺もだよ、美里。美里に出会えて、本当に良かった」
俺は美里の額にキスをした。美里の瞳は、潤んでいた。
「ずっと、一緒にいたい…」
美里が呟いた。その言葉に、俺の心は締め付けられるような感覚に陥った。俺も、同じ気持ちだった。ずっと、美里の隣にいたい。
しかし、拓也には、一つだけ、美里に打ち明けられないことがあった。それは、バンドのローディーという仕事が、不安定な職であるということ。いつまでこの仕事を続けられるのか、将来が見えない不安。美里との未来を真剣に考えるほど、その不安は大きくなっていった。
だが、今、美里の温もりを感じているこの瞬間だけは、何もかも忘れて、ただ、美里の存在だけを深く感じていたかった。
一方、遠山健太は、吉田沙羅との関係が深まるにつれて、ある決断を迫られていた。イベントスタッフのバイトは、あくまでつなぎの仕事。このままでは、将来が見えない。沙羅との将来を真剣に考えるなら、そろそろ次のステップに進むべきだと感じていた。
そんな時、健太は、大学の友人から、新しいイベント会社の立ち上げに誘われた。経験者優遇で、正社員としての募集。健太の心は揺れた。安定した職に就きたいという気持ちと、今の自由な働き方を続けたいという気持ち。
「ねえ、健太。どうしたの? なんか元気ないよ?」
沙羅が、俺の顔を覗き込むように言った。俺たちは、いつものカフェで、旅行の思い出の写真を見ていた。
「いや、ちょっと、仕事のことで考えててさ…」
俺は正直に沙羅に打ち明けた。沙羅は、真剣な表情で俺の話を聞いてくれた。
「そっか…健太が悩んでるなら、私も一緒に考えるよ」
沙羅の優しい言葉に、俺の心は温かくなった。この子とだったら、どんな困難も乗り越えられる。そう強く感じた。
「ありがとう、沙羅…」
俺は沙羅の手を握りしめた。その手は、俺の不安をそっと包み込んでくれるようだった。
健太は、沙羅との未来のために、真剣にキャリアを考えるようになっていた。フットワークの軽さだけでは、この先はやっていけない。沙羅との出会いが、俺を成長させてくれている。そう確信していた。
藤井拓也の心には、美里への募る愛情と、将来への漠然とした不安が同居していた。音楽業界の裏方という仕事は、確かにやりがいがある。しかし、その不安定さは、美里との未来を真剣に考えるほどに重くのしかかってきた。
ある晩、拓也は美里の部屋で、共に食事をしていた。美里が作った、拓也の好物である唐揚げの匂いが部屋中に広がる。
「たくやさん、最近、なんだか元気ないように見えるけど、何かあった?」
美里が心配そうに拓也の顔を覗き込んだ。そのまっすぐな瞳に、拓也は一瞬、言葉を詰まらせた。
「いや…別に、何もないよ。ただ、仕事がちょっと忙しくてさ」
拓也は曖昧に答えたが、美里は納得していないようだった。彼女は箸を置き、拓也の手をそっと握った。
「私には、何でも話してほしいな。たくやさんが悩んでいるなら、一緒に考えたい」
美里の優しさに、拓也の胸は締め付けられた。この優しさに、いつまで甘えていられるだろうか。
「美里…実はさ」
拓也は意を決して、自分の不安を打ち明けた。バンドのローディーという仕事の不安定さ、将来への見通しのなさ。美里は、黙って拓也の話に耳を傾けていた。拓也が話し終えると、美里はしばらく何も言わず、ただ拓也の手を強く握りしめていた。
「…そっか。たくやさん、そんな風に悩んでたんだね」
美里の声は、どこか寂しそうだった。拓也は、美里を不安にさせてしまったことに、罪悪感を覚えた。
「ごめん、美里。こんな話、聞かせちゃって…」
「ううん、違うよ。話してくれて、ありがとう」
美里はそう言って、拓也の肩にそっと頭をもたれかけた。
「たくやさんが、どんな仕事をしていても、私はたくやさんのことが好きだよ。たくやさんが、音楽に情熱を燃やしている姿、私、本当に尊敬してる」
美里の言葉が、拓也の心に温かい光を灯した。美里は、俺の仕事の不安定さを受け入れてくれるのだろうか。いや、それだけじゃない。俺の情熱を、誰よりも理解し、応援してくれている。そのことに、拓也は深く感動した。
「美里…ありがとう」
拓也は美里を抱きしめ、その柔らかな髪に顔を埋めた。美里の温かさが、拓也の不安を少しずつ溶かしていくようだった。この温もりを、絶対に手放したくない。拓也は、美里との未来のために、改めて自分の仕事と向き合うことを決意した。
その夜、二人は互いの存在を深く確かめ合った。美里の優しさと理解が、拓也の心を包み込み、二人の絆はより一層強固なものになった。
健太は、沙羅との将来を真剣に考え、友人が立ち上げる新しいイベント会社への転職を決意した。正社員としての安定と、やりがいのある仕事。それは、沙羅との未来を築く上で、大きな一歩となるはずだった。
「健太、転職するって、本当にいいの?」
沙羅が、心配そうに健太の顔を見上げた。二人は、いつものカフェで、健太の転職について話し合っていた。
「ああ、決めた。沙羅と出会って、俺も真剣に将来を考えたいって思ったんだ」
健太は沙羅の手を握り、真っ直ぐに沙羅の目を見つめた。沙羅の瞳には、少しの戸惑いと、それ以上の喜びが入り混じっていた。
「私、健太が選んだ道なら、応援するよ。でも、無理だけはしないでね」
沙羅の優しい言葉に、健太の心は温かくなった。この子とだったら、どんな困難も乗り越えられる。そう強く確信した。
転職の準備と、新しい仕事への期待で、健太の毎日は慌ただしく過ぎていった。しかし、沙羅との時間は、健太にとって何よりも大切な息抜きだった。
ある週末、健太は沙羅を連れて、転職先のオフィスを見に行った。まだ準備段階のオフィスは、がらんとしていたが、そこに新しい未来が広がっているように感じた。
「ここが、これから健太が働く場所なんだね」
沙羅が、キラキラとした瞳でオフィスを見回した。その姿に、健太は胸を熱くした。
「ああ。ここから、新しい俺の人生が始まるんだ」
「私、応援してるよ、健太。頑張ってね!」
沙羅が健太の手に自分の手を重ね、力強く握った。その温かさが、健太の心に勇気をくれた。
しかし、そんな健太にも、少しだけ迷いがあった。それは、沙羅との関係が、本当にこのまま順調に進んでいくのかという、漠然とした不安だった。お互いに忙しくなれば、すれ違いも増えるかもしれない。
そんなある日、健太は、大学の友人である拓也からメッセージを受け取った。
『健太、今度、美里と一緒にイベント見に来ないか? 俺が設営したステージなんだ』
拓也からの誘いに、健太は二つ返事で快諾した。久しぶりに拓也と話せるのも楽しみだったし、美里にも会ってみたかった。
美里との関係が深まるにつれて、拓也は、仕事に対する意識も変化していった。これまでは、ただライブを成功させることだけを考えていたが、今は、美里に胸を張れるような仕事がしたい、という気持ちが強くなっていた。
そんな時、拓也の担当するバンドが、大きな野外フェスに出演することになった。それは、拓也にとって、ローディーとしての腕の見せ所だった。いつも以上に気合を入れて、準備に打ち込んだ。
フェス当日、拓也は朝早くから会場入りし、ステージの設営に汗を流していた。広大な敷地に、次々と組み上がっていく巨大なステージ。それは、拓也の仕事に対する情熱をさらに掻き立てるものだった。
「たくや、お疲れ様!」
声のする方を振り向くと、そこに美里が立っていた。美里は、フェスTシャツを着て、キャップを被っている。いつもとは違うカジュアルな服装が、拓也の目には新鮮に映った。
「美里! 来てくれたんだ!」
拓也は、思わず駆け寄って美里を抱きしめた。美里の柔らかな温もりが、拓也の疲れを癒してくれるようだった。
「たくやの頑張ってる姿、見に来たよ!」

美里の笑顔に、拓也の心は満たされた。こんなにも自分のことを応援してくれる人がいる。そのことが、拓也の背中を強く押した。
ライブが始まり、会場の熱気は最高潮に達した。拓也はステージ袖で、バンドのメンバーが最高のパフォーマンスができるよう、機材の調整に集中した。美里は、観客席から拓也を見守っていた。
拓也が、真剣な表情で仕事に打ち込む姿を、美里は静かに見つめていた。その姿は、美里の目には、誰よりも輝いて見えた。拓也が、どれだけこの仕事に情熱を注いでいるか。それが、美里には痛いほど伝わってきた。
「たくや、カッコいい…」
美里は、心の中で呟いた。彼の仕事に対する真摯な姿勢が、美里の心をさらに惹きつけていた。
その日のライブは、最高の成功を収めた。観客の歓声が、いつまでも会場に響き渡っていた。
ライブ終了後、拓也は美里を連れて、打ち上げ会場へと向かった。そこには、健太と沙羅の姿もあった。
「拓也、お疲れ! 美里さん、お久しぶりです!」
健太が満面の笑みで拓也に声をかけた。沙羅も、美里に笑顔で挨拶した。
「健太も、沙羅も、来てくれてありがとうな!」
四人は、テーブルを囲んで座り、ビールで乾杯した。