人生の後半に差し掛かり、まさかこんな形で新しい出会いがあるなんて、数ヶ月前までは考えもしなかった。
外食チェーンのマネージャーとして、時間に追われる毎日。気がつけば、家庭には僕一人。子供たちは独立し、賑やかだった家はひっそりとしていた。
そんな時、ふと目にしたのが「人生を共に歩むパートナーを見つけませんか?」という広告だった。
正直、最初は半信半疑だったけど、このまま一人で老いていくのは寂しい、という思いが勝った。軽い気持ちで登録したアプリ。プロフィール写真に映る自分は、少しばかり疲れて見えたかもしれない。
「宮本 恵、52歳、主婦」
彼女のプロフィール写真を見た時、穏やかな雰囲気に惹きつけられた。派手さはないけれど、優しそうな笑顔。思い切って「いいね!」を押してみた。数日後、まさかのマッチング通知。心臓がドクリと鳴った。
最初のメッセージのやり取りは、ぎこちなかったけれど、すぐに互いのペースを掴んだ。
恵さんも僕と同じように、人生の節目で新たな繋がりを求めているようだった。
「これまでの人生、色々なことがありましたね」
「これからは穏やかな時間を過ごしたいです」
そんな飾らない言葉の端々に、深い共感を感じた。話は尽きず、メッセージのやり取りは日を追うごとに増えていった。互いの趣味、休日の過ごし方、そして、これからどんな人生を送りたいか。まるで長年の友人と話しているかのようだった。
メッセージだけでは物足りなくなり、通話をすることになった。スマホを持つ手が震えた。どんな声なんだろう、メッセージの印象と違うかな?
「もしもし、神崎さんですか?」
電話口から聞こえてきたのは、想像していた通り、優しく、少しハスキーな声だった。
「あ、はい、宮本さん。神崎です。」
(ゴクッ・・・)
緊張で喉が鳴るのが分かった。
「メッセージだと、つい話しすぎちゃってごめんなさいね。」
恵さんが小さく笑った。その声に、張り詰めていた心が少し緩んだ。
「いえいえ、宮本さんの話、すごく面白くて。もっと聞きたいって思ってました。」
本心だった。彼女の話す、日々の小さな出来事や感じていることに、僕はすっかり惹きつけられていた。
それから毎日、電話をするのが日課になった。時には仕事の愚痴を聞いてもらったり、彼女が作った料理の話を聞かせてもらったり。声を聞くだけで、その日の疲れが癒されるのを感じていた。会いたい気持ちが募っていった。
「あの、宮本さん。もし良かったら、一度、お会いできませんか?」
意を決して提案してみた。一瞬の沈黙が流れる。ダメかな、と諦めかけたその時。
「はい、私も神崎さんにお会いしたいと思っていました。」
(ドクン!)
心臓が大きく跳ねた。まるで初めてのデートを申し込む少年のような鼓動だった。
そして迎えた約束の日。初対面の場所は、街の喧騒から少し離れた、落ち着いた喫茶店を選んだ。待ち合わせ時間の10分前に着き、店の前でソワソワしながら待った。どんな服装で来るんだろう?写真と同じかな?色々な思いが駆け巡る。
(チリン)
店のドアのベルが鳴った。顔を上げると、探していた人がそこにいた。写真よりも、ずっと素敵だった。白のワンピースに、柔らかなベージュのカーディガンを羽織っている。スラリとした立ち姿は、年齢を感じさせなかった。
「神崎さん!」

彼女が僕の名前を呼んだ。その声に、吸い寄せられるように立ち上がった。
「宮本さん!どうも、神崎です。」
(ドキドキ・・・)
間近で見ると、写真よりもっと目がキラキラしている。少しだけ頬が紅潮しているように見えたのは、気のせいだろうか。
店内の席に着き、メニューを開く。何を話そう、頭の中でシミュレーションしていた会話が、上手く組み立てられない。
「あの、今日はありがとうございます。」恵さんが先に口を開いた。
「いえ、こちらこそ。来ていただいて、本当に嬉しいです。」自然と、そんな言葉が出てきた。
コーヒーを注文し、運ばれてくるまでの間、他愛もない話をした。天気のこと、お店の雰囲気のこと。会話の間に訪れる沈黙も、嫌なものではなかった。むしろ、心地よかった。
「メッセージや電話でもお話ししましたけど、こうしてお会いできて、本当に良かったと思っています。」
僕が言うと、恵さんが柔らかな笑顔を見せた。
「私もです。神崎さんにお会いするまで、少し不安もあったんですけど…でも、お話ししているうちに、メッセージのままの方だって分かりました。」
その言葉に、胸のあたりがじんわりと温かくなった。僕も同じ気持ちだったから。画面越しの声だけの相手じゃない。目の前に、確かに彼女が存在する。その事実に、安堵と喜びを感じていた。
話は自然と、これまでの人生について移っていった。互いの仕事のこと、家族のこと、そして別れのこと。穏やかな口調で語られる彼女の人生は、波乱万丈というわけではないけれど、一つ一つの経験が彼女を形作ってきたのだと感じた。僕も自分の人生を語った。失敗談で恵さんが(クスッ)と笑ったとき、この人の前では素の自分でいられる、と思った。
時間はあっという間に過ぎていった。気づけば、コーヒーはとうに飲み干していた。
「もうこんな時間なんですね。」恵さんが時計を見て言った。
「本当ですね。話し込んじゃいました。」もっと話したい、このまま時間が止まればいいのに、とさえ思った。
会計を済ませ、店を出る。外はすっかり夕暮れ時だった。茜色の空の下、二人で並んで歩く。特に会話はなかったけれど、その沈黙がまた、心地よかった。
駅まで送っていく途中、ふと、恵さんが立ち止まった。
「神崎さん、今日は本当にありがとうございました。すごく楽しかったです。」
立ち止まった彼女の顔を見つめた。夕陽に照らされて、その輪郭が柔らかく光っていた。
「僕もです。恵さんとお話しできて、本当に楽しかった。」
自然と、手が伸びて、彼女の、二の腕に触れた。ほんの軽い接触だったけど、そこから体温が伝わってくるのを感じた。
彼女の体温だ。この温かさをもっと感じたい、そんな思いが湧き上がった。
恵みさんは、驚いた様子もなく、ただ僕の目を見つめ返してきた。その瞳の中に、僕と同じような感情の揺れが見えたような気がした。
「あの、もし良かったら、またお会いできませんか?」
今度は、迷いなくそう口にしていた。
「はい、ぜひ。」
恵さんの返事に、心が躍った。今日の別れは、終わりじゃない。新しい始まりだ。
二人の関係は、まだ始まったばかり。これからの日々が、どんな色に彩られていくのか。期待で胸がいっぱいだった。そして、次に会うとき、もっと深く、彼女という存在に触れたい。そんな密やかな願望が、僕の心の中で芽生え始めていた。
恵さんと別れてからの数日間は、まるで夢の中にいるようだった。初めて会ったのに、何年も前から知っていたような安心感。そして、触れた腕の温かさ。あの感触が、ずっと心に残っていた。すぐにでもまた会いたかった。
「宮本さん、先日の喫茶店、本当に楽しかったです。また、お時間ありますか?」
メッセージを送る指が、少し震えた。すぐに既読マークがつき、(ポンッ)と返信の通知音が鳴った。
「神崎さん、私もです。また、お話ししたいです。来週の水曜日はいかがですか?」
(ヨシ!)
思わず、小さくガッツポーズをしてしまった。
次のデートは、少しおしゃれなレストランを選んだ。仕事帰りの恵みさんと待ち合わせ。店の前で待っていると、ヒールの音とともに彼女が現れた。(カツ、カツ)スーツ姿の恵みさんは、前回の柔らかな雰囲気とは違い、キリッとしていて、これまた素敵だった。
「お疲れ様です、宮本さん。」
「神崎さん、お待たせしました。」
店内に案内され、テーブルに着く。グラスに注がれたワインが、店内の照明を受けてキラキラと輝いている。
「お仕事帰りでお疲れのところ、すみません。」
「いいえ、神崎さんとお話しできると思ったら、疲れも吹き飛んじゃいました。」
恵さんの言葉に、ドキッとした。もしかして、僕と同じように、この時間を楽しみにしてくれていたのだろうか。
美味しい料理とワインを楽しみながら、会話は弾んだ。仕事のこと、プライベートのこと、そして、お互いの過去の恋愛についても、少しずつ話すようになった。恵みさんが過去の辛い経験を話してくれた時、その声が少し震えているのを聞いて、いてもたってもいられなくなった。
「宮本さん…大変でしたね。よく乗り越えられましたね。」
「神崎さんも、色々あったんですよね。」
僕たちは、人生の後半だからこそ分かり合える痛みや、乗り越えてきた壁について語り合った。話せば話すほど、心の距離が縮まっていくのを感じた。この人なら、僕の弱さも見せられるかもしれない。そう思えた。
レストランを出て、夜の街を歩いた。酔いも手伝ってか、自然と距離が縮まる。歩道橋を渡る時、階段で恵みさんが少しつまずいた。
(危ない・・・!)
咄嗟に、彼女の腰に手を回して支えた。
「大丈夫ですか、宮本さん?」
「あ、ありがとうございます、神崎さん。」
腰に回した手に、彼女の体の温かさが伝わってくる。
細くて、柔らかい腰だった。そのまま、少しの間、手が離せなかった。
彼女も、されるがまま、僕の目を見つめている。街灯の明かりの下で、彼女の瞳が潤んでいるように見えた。
「あの…少し、休憩しませんか?あそこのベンチに。」
僕の声は、少し上ずっていたかもしれない。公園のベンチに並んで座る。街の喧騒が遠ざかり、静寂が僕たちを包み込む。
「神崎さん…」
恵みさんが、僕の名前を呼んだ。その声は、昼間とは違う、少し甘えたような響きを含んでいた。
「はい…」
「なんだか、神崎さんといると、落ち着くんです。」
「僕もです。宮本さんといると、ホッとします。」
互いに顔を見合わせ、どちらからともなく、手が触れ合った。指先が触れた瞬間、ピリッと微かな電流が走ったような気がした。
そのまま、ゆっくりと指を絡ませる。恵みさんの手は、小さくて温かかった。その温かさが、僕の心にまで染み渡るようだった。
「恵さん…」
気づけば、名前で呼んでいた。彼女も、驚いた様子はなく、ただ僕の目を見つめ返してきた。
「浩さん…」
彼女が僕を名前で呼んだ時、もう、抑えきれなかった。ゆっくりと、彼女の顔に近づく。彼女も、目を閉じ、顔を上げた。
(ドキドキ、ドキドキ)
心臓の音が、耳元で響いている。
唇が触れ合った。柔らかくて、温かい。
(チュ…)
初めてのキス。ぎこちなかったけれど、そこには確かな情熱があった。唇を重ねるたびに、体の奥から熱が湧き上がってくるのを感じた。若い頃のような激しさとは違う、もっと深く、慈しむような、そんなキスだった。
「恵さん…好きです。」
キスを終え、額と額を合わせたまま、僕はそう言った。
「浩さん…私も…」
恵みさんの声は、涙を含んで震えていた。そっと、彼女を抱き寄せた。
華奢な肩が、僕の胸に寄りかかってくる。背中に回した手に、彼女の体の震えが伝わってくる。嬉しさなのか、それとも別の感情なのか。
しばらくの間、そうして抱き合っていた。夜風が、二人の間を吹き抜けていく。
心地よい沈黙が流れる。このまま時間が止まってしまえばいい、と心から願った。
「あの…もう遅いですし…」恵みさんが、申し訳なさそうに言った。
「そうですね…」離れたくない気持ちでいっぱいだったけれど、彼女を困らせたくなかった。
駅まで送り、改札の前で立ち止まる。手は、まだ繋いだままだった。
「今日は、ありがとうございました。すごく…嬉しかったです。」
恵さんが、潤んだ瞳で僕を見上げた。
「僕もです。恵さん。」
もう一度、彼女を強く抱きしめた。
今度は、さっきよりも長く、深く。体の全てで、彼女の存在を感じたかった。柔らかい髪の匂い、背中のライン、そして、僕の体にぴったりと寄り添う温かさ。
「また、すぐに会えますか…?」
別れを惜しむように、そう尋ねた。
「はい…もちろんです。」
恵みさんの声は、小さく、けれど確かな響きを持っていた。離れがたい思いを断ち切って、ゆっくりと体を離す。繋いでいた手を離すのが、名残惜しかった。
改札を通り過ぎる恵みさんの背中を見送った。人混みに紛れて見えなくなるまで、ずっと。スマホを取り出し、すぐにメッセージを送った。
「家に着いたら、連絡ください。」
(ピッ)
送信音とともに、僕の心は、次回のデートへと向かっていた。次は、もっと、お互いを深く知る時間になるだろう。そして、この繋がりを、もっと確かなものにしたい。そんな決意が、僕の心の中で固まっていた。
恵さんからの「家に着きました」という短いメッセージに、僕は心底ホッとした。
同時に、あの夜の余韻が、まだ体の奥に残っているのを感じていた。
唇に残る柔らかさ、腰に触れた時の温もり、そして、抱きしめた時の彼女の体のライン。全てが鮮明に記憶に残っていて、一人になると、その感触を反芻してしまう。
それからの僕たちは、以前にも増して頻繁に連絡を取り合うようになった。
電話では、その日の出来事を細かく話し合った。仕事で嬉しいことがあった、近所のスーパーで珍しい野菜を見つけた、そんな些細なことでも、恵さんと共有すると、世界が色鮮やかに見えた。
「浩さん、今日ね、空がすごく綺麗だったのよ。」
電話口で、彼女が嬉しそうに話す声を聞いていると、僕の心の奥まで温かくなるのを感じた。
「そうだったんだ。俺も見たかったな。」
「ふふ、明日も晴れるといいわね。」
そんな他愛もない会話の中に、確かに愛が育まれているのを感じていた。そして、次に会う場所は、自然とどちらかの家になった。気兼ねなく、もっと長い時間を一緒に過ごしたかった。
初めて恵さんの家に行った日。少し緊張していた。
彼女の「生活」の中に、僕が入っていくような感覚。玄関を開けると、ふわりと優しい香りがした。
清潔で、居心地の良さそうな空間。リビングに通されると、手作りのクッキーがテーブルに並んでいた。
「どうぞ、私が焼いたの。」
「わあ、美味しそう!ありがとう、恵さん。」
クッキーを口に運ぶと、素朴で優しい味がした。恵さんの人柄そのもののような味だった。
ソファに並んで座り、他愛もない話を続けた。テレビを見たり、音楽を聴いたり。一緒に過ごす時間が、ただただ心地よかった。
外で会うときのような緊張感はもうない。自然な流れの中で、手と手が触れ合う。今度は、迷いなくその手を握った。恵さんも、ぎゅっと握り返してくれた。
指を絡ませると、互いの鼓動が伝わってくるようだった。
日が暮れ、部屋の照明を少し落とすと、ムーディーな雰囲気になった。
ソファの上で、寄り添うように座る。恵さんの肩にそっと手を回すと、彼女は僕の胸に頭を乗せてきた。
柔らかい髪が頬をくすぐる。心地よい重みと、温かさ。このままずっと、こうしていたいと思った。
「恵さん…」
「ん…」
彼女の返事は、甘くとろけるようだった。顔を傾け、彼女の唇にそっとキスをした。
(チュ…)
今までのキスよりも、もっと深く、お互いを求め合うようなキスだった。唇を重ねるたびに、体中に熱が広がるのを感じた。
(カサリ…)
自然と、手は彼女のカーディガンに伸びていた。ゆっくりとボタンを外していく。その下のブラウスに触れると、恵さんの体が小さく震えた。
「浩さん…」
彼女の声は、少し不安そうだったけれど、拒絶ではなかった。
「大丈夫だよ、恵さん。ゆっくり…」
優しく囁きかけながら、ブラウスのボタンも外していく。真っ白な肌が見えた時、
(ゴクッ・・・)
喉が鳴った。決して若くはないけれど、滑らかで、美しい肌だった。その肌に触れたい。強く、そう思った。
シャツを脱がせると、レースの下着が現れた。普段の恵さんからは想像できないような、少し大胆なデザインだった。そのギャップに、ドキッとした。
「綺麗だよ…恵さん。」
素直な気持ちを伝えると、恵さんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。その仕草が、たまらなく愛おしかった。
ゆっくりと、下着に手をかける。恵さんの息遣いが、少し荒くなるのを感じた。
(ハァ、ハァ)
僕も、同じように息が上がっていた。長い間、忘れていた感覚だった。若い頃のような、衝動的な欲求とは違う。もっと、深く、慈しむような、愛おしい気持ち。この人を、全身で感じたい。そう思った。
下着を外し、露わになった体を、ゆっくりと撫でた。柔らかくて、温かい。肌と肌が触れ合うたびに、ゾクッと体が震えた。
「んん…浩さん…」
恵さんの声が、甘く響く。僕も、彼女の名前を何度も呼んだ。
互いの服を脱がせ、裸になった。肌と肌が触れ合う。年を重ねた体のライン。たるみも、皺も、全てが愛おしかった。この体で、長い人生を歩んできたんだ。そう思うと、胸が熱くなった。
ベッドに移動し、並んで横になる。照明を消すと、部屋は静寂に包まれた。ただ、二人の息遣いだけが響いている。
そっと、恵さんを抱き寄せた。彼女も、僕の体に腕を回してきた。お互いの温もりを確かめ合うように、強く抱き合った。
「恵さん…愛してるよ。」
自然と、その言葉が口からこぼれた。
「浩さん…私も…愛してる…」
恵さんの声は、涙を含んで震えていた。
そして、僕たちは一つになった。若い頃のような激しさはない。けれど、そこには、お互いを深く慈しみ、労り合う、穏やかで満たされた愛があった。体の奥から込み上げてくる温かさ。それは、体だけでなく、心の奥深くまで響いてくるような感覚だった。
(んん…あぁ…)
恵さんの甘い喘ぎ声が、耳元で響く。僕も、彼女の名前を呼びながら、愛を伝えた。一つになるたびに、心の繋がりが強固になっていくのを感じた。
行為の後、恵さんは僕の腕の中で眠ってしまった。その寝顔を見ていると、込み上げてくるものがあった。
人生の後半で、こんなにも深く愛せる人に出会えるなんて、思ってもみなかった。この温もりを、もう二度と手放したくない。
朝になり、目を覚ますと、恵さんはまだ僕の隣で眠っていた。規則正しい寝息を聞きながら、この穏やかな時間がずっと続けばいいと願った。窓から差し込む朝日に照らされた彼女の顔は、穏やかで、満たされているように見えた。
そっと、彼女の頬に触れる。恵さんが、小さく身じろぎ、目を覚ました。
「…浩さん…」
眠たそうな目で、僕を見上げる。その瞳には、確かな愛情が宿っていた。
「おはよう、恵さん。」
「おはよう…」
二人の間に流れる空気は、柔らかく、温かい。もう、言葉は必要なかった。ただ、この温もりの中で、二人で生きていこう。そう心に誓った。
マッチングアプリが繋いでくれた、遅れてやってきた運命。人生の後半で知った、深く、穏やかな愛。この温かい繋がりこそが、僕がずっと探し求めていたものだったのかもしれない。恵さんの存在が、僕の人生を再び色鮮やかに彩ってくれた。これからも、二人で、ゆっくりと、愛を育んでいこう。そう強く思った。