恋愛ストーリー

あの雨の日から、すべてが始まった… 第八章

雷鳴、そして運命の選択

美央は海斗の胸に顔を埋め、倫子の事務所で突きつけられた過酷な現実を全て打ち明けた。
写真のこと、寛の要求、そして自分に残された選択肢の少なさを語りながら、涙は止まらなかった。


海斗はただ黙って、美央を強く抱きしめ続けていた。外では雨が降り続き、雷鳴が轟いている。

美央が泣き止み、静けさが戻った頃、海斗がゆっくりと口を開いた。

「ねぇ、美央さん…」

「…何?海斗くん…」

「一つ、聞いても良い…?」

「うん…」

海斗は美央の涙を拭い、唇にそっと自らの唇を重ねた。

優しいキスだった・・・。

それは、彼女の心を癒し、安心させるような温もりを宿していた。


やがて、キスは次第に熱を帯び、舌が絡み合い、情熱的なものへと変わっていく。
海斗の温もりが、美央の心と体を満たしていく。

唇を離した海斗は、潤んだ瞳で美央をまっすぐに見つめ、その心を揺るがす言葉を口にした。

「僕は、美央さんと一緒にいたいよ…」

その純粋な、しかし力強い言葉に、美央の心臓が大きく高鳴った。
不安と絶望で閉ざされかけていた心に、光が差し込むようだった。

「私も・・・。海斗くんと一緒にいたい。これからもずっと、ずっと…」

美央はそう答えるのが精一杯だった。
そして、海斗を強く抱きしめた。彼の腕の中にいることが、何よりも美央を安心させた。

「…そっか。ありがとう。嬉しい。じゃあ…」

海斗が、何かを決意したように言葉を続けようとした、その瞬間。

ギャーーーーンーーーーー!!!ゴロゴロ・・・・・!!

けたたましい雷鳴が轟き、海斗の言葉はかき消された。
美央は海斗を見上げる。
そして、雷の音に打ち消されながらも、海斗の口から放たれた言葉は、美央にとって全く思いがけないものだった。

「…僕とアメリカで暮らさないか?」

「・・・えっ!?どういうこと…?」

美央は、その言葉の意味が全く理解できなかった。

海斗は美央を抱きしめた腕に少し力を込め、ゆっくりと話し始めた。

「実は、アメリカの大学病院から、僕にヘッドハンティングのオファーが来ているんだ。
僕は美央さんと別れるのが嫌で、今までずっと断ってた。
でも、もし、美央さんが僕と一緒にアメリカに来てくれるなら、僕は、このオファーを受けるつもりでいる」

アメリカの大学病院からのオファー。

それは海斗にとって、医者としてのキャリアを飛躍させる絶好の機会であることは、美央にも分かった。
しかし、それ以上に、美央と一緒にいたいという海斗の強い気持ちが、彼女の心を震わせた。

「でも、私が一緒で、邪魔にならない?私、自信がないよ・・・。今の私じゃ、海斗くんの足を引っ張りそうな気がして…」

美央は不安な顔で言った。

海斗は首を横に振った。

「そんなことないよ。むしろ、僕には美央さん、あなたが必要なんだ。あなたじゃなきゃダメなんだ!
美央さんがいてくれるなら、日本じゃなくていい。どこの国でもいい」

海斗は美央の手を握りしめ、その瞳を真っ直ぐに見つめた。

「だから、ご主人の条件、全部飲み込んで離婚して、それからアメリカに来て。
しばらく離れ離れになっちゃうから、さみしいけど、僕もアメリカで美央さんを受け入れる準備をするから」

海斗にとって、アメリカの大学病院からのオファーは、医者としてのキャリアを大きく左右する決断だった。
しかし、それ以上に、愛する美央と一緒にいたいという気持ちが強かった。

美央の離婚問題が進む中で、彼女を守るためには自分がもっと大きな存在になる必要があると考え、
そのためにはアメリカに行くべきだと決断したのだ。美央を日本に残していくのは辛い。
だが、これも二人の将来のためだと、苦渋の決断だった。

「海斗くん…ありがとう…」

美央の目から、再び涙が溢れ出した。
嬉しさと、海斗の深い愛情が、全身に染み渡る。

海斗は美央の涙を指先で拭い、優しい声で言った。

「美央さん。僕とアメリカで一緒に住んで、アメリカ国籍を取っちゃえば、日本の法律は関係なくなる。
アメリカ人としてだけど、僕たちは結婚もできる。僕はそれでいい。
美央さんと一緒にいれるなら。そして、子供もいっぱい作ろう。向こうで幸せに暮らそうよ」

「う…ん…わか、った…」

美央は、言葉にならなかった。
海斗の愛が、あまりにも大きく、温かかった。

「美央さん。愛してる。今までも、そして、これからも・・・。
だから、もう泣かないで…僕は笑ってる美央さんが一番好きだよ・・・」

その時交わしたキスは、散る寸前の桜のような、儚さと美しさを宿していた。
二人の未来への希望と、一時的に離れ離れになることへの切なさが入り混じった、特別なキスだった。

数週間後、海斗はアメリカへ出発する前日を迎えた。


寛との離婚は、彼の提示した条件を全て受け入れる形で正式に成立していた。
条件には、海斗と一切連絡を取らないことも含まれている。


本来ならば、美央が彼に会うことは許されない。
しかし、美央は禁忌を破り、彼に会いにいく決意をした。

会う場所に選んだのは、場末の小さなラブホテル。

このホテルのオーナーであるかすみとは、美央が以前スーパーでアルバイトをしていた時に知り合い、時々食事に行く仲だった。
美央はかすみに、出発前の海斗に会う方法がないか相談し、かすみが海斗を車で迎えに行き、ホテル内で会えるように段取りをしてくれたのだ。

数週間ぶりの再会。美央は緊張と不安、そして期待が入り混じった気持ちで、彼の到着を待った。

ガチャ!

勢いよく部屋のドアが開く。

「美央さん!」

海斗の声が響いた。

「海斗くん!」

美央は思わず駆け寄った。

駆けつけた海斗は、美央を強く抱きしめた。

「美央さん…」

「海斗くん…」

言葉は要らなかった。
ただ、お互いの存在を確かめるように、強く抱き合う二人。

そして、お互いの顔を見つめ、熱いフレンチキスを交わした。
それは、しばらく会えなくなる淋しさを埋めるかのような、切なく激しいキスだった。

キスを終えた二人は、まるで飢えた獣のように、互いの身体を求め合った。


数週間の空白が、二人の欲望をさらに燃え上がらせていた。
お互いに濃密な愛撫を堪能し、海斗の勃ち上がった肉棒を受け入れようとしたその時、美央は海斗を制した。

「海斗くん。待って…」

「どうしたの?美央さん」

海斗は少し戸惑った。

美央は海斗の目を見つめ、静かに、しかし強い意志を持って言った。

「今日は…ゴム付けないで」

海斗は息を呑んだ。

「…いいの?」


それは、桜の頃の旅行以来、二度目となる、特別な行為だった。

「うん。今日は海斗くんをいっぱい感じたいから」

美央は、この夜、海斗の全てを身体に刻み込みたかった。
しばらく離れ離れになる前の、最初で最後の別れの証として。

美央は、海斗のそのままを受け入れた。

熱く、大きく、逞しい彼の肉棒が、美央の身体の奥深くまで到達する。
ヌチュッ…という音と共に、身体の内側が熱くなる。

海斗は、美央の願いに応えるかのように、その愛液を美央の一番奥に、何度も何度も注ぎ込んだ。

ドバッ…!ドバドバドバドバドバッ…!!

身体が震え、甘い悲鳴が漏れる。
それは、快感と、海斗との別れを惜しむ切なさが入り混じった声だった。

ベッドで抱き合いながら、海斗は美央を強く抱きしめた。

「しばらく会えないけど、アメリカで待ってる」

美央も海斗を抱きしめ、

「待ってて。すぐに行くから・・・」

と囁いた。

次の日、海斗はアメリカへ出発した。

美央は空港へ見送りには行かなかった。
約束通り、数週間後に彼を追ってアメリカに行くつもりだった。

だが、美央は結局、彼を追いかけなかった。
いや、追いかけられなかった・・・。

海斗がアメリカに旅立ってから数週間後。
美央がアメリカへ向かう準備を進めていた矢先、突然吐き気に襲われた。

「うっ・・・」

キッチンのシンクに駆け込み、思わず嘔吐する。

「え・・・?まさか…」

美央の脳裏に、一つの可能性がよぎった。

薬局で妊娠検査薬を買い、試してみる。

結果は・・・陽性。

かすみさんに頼んで彼と密会し、激しく何度も愛し合ったあの日。
美央は、海斗との子を宿していた。

喜びと同時に、強い不安が美央を襲った。
このままアメリカに行けば、海斗の輝かしい未来に、自分の妊娠が影を落としてしまうかもしれない。
それに、もしこの子の存在が、夫である寛に知られたら…
寛が何を仕出かすか分からないという恐怖が、美央の心を締め付けた。

結果、美央は一人でこの子を産み、育てていくことを決意した。
それは、愛する海斗のためであり、何よりもお腹の子を守るためだった。

妊娠が分かった後、美央は住んでいた家を引き払い、街を離れた。


選んだのは、遠くに海が見える港町の外れ。
美央のことを誰も知らない、静かな町だった。

そこで、海斗の子である女の子を出産した。
子供には、美海(みう)と名付けた。
美海という名前には、海斗との思い出、そしてこの子に海の向こうの海斗につながる広い世界を見てほしいという願いを込めた。

慣れない育児に戸惑い、経済的な不安に押しつぶされそうになる日もあった。
しかし、眠る娘の小さな顔を見ていると、どんな困難も乗り越えられると思えた。

眠る美海を抱っこしながら、美央はそっと呟く。

「あなたがいる。それだけで今は十分…でも、時々、海の向こうの空を見上げてしまうのは、どうしてだろうね…」

美央の新たな、そして孤独な生活が、港町の片隅で静かに始まった。
海の向こうには、彼女を心から愛し、そして守るために離れることを選んだ、海斗がいる。
二人の物語は、ここで一度終わりを告げる。

再び交わる日が来るのか、それとも…。
その答えは、まだ、海の向こうの空に霞んでいた・・・。

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