恋愛ストーリー

あの雨の日から、すべてが始まった・・・ 第五章

法廷の予感と揺れる心

和城の件を経て、美央の中で夫である寛との関係に完全に終止符を打つ決意が固まった。
もはや寛に対し、尊敬も愛情すらも残っていない。


あるのは、裏切りに対する冷たい怒りと、清算したいという強い願望だけだった。
美央は、寛が海外赴任先から一時帰国するタイミングを待った。

寛が日本に戻った日、美央は切り出した。

バサッ・・・!

テーブルの上に散らばる、和城から手に入れた不倫の証拠――

写真やメールのやり取り、探偵の報告書などを突きつける。

「これは…なんだ…?」

それまで悠然と構えていた寛の顔から、みるみる血の気が引いていくのが分かった。

「何言ってんの?あなたの、海外での不倫の証拠よ」

美央の声は、驚くほど冷静だった。
内心の怒りを押し殺し、美央は淡々と続けた。

「これを使って、あなたと、その相手の女性に慰謝料を請求します。そして、私と離婚してください」

美央の言葉に、寛は狼狽した。

「離婚・・・?何を言ってるんだ!それに、こんなもの…俺は何も関係ない!」

彼は証拠から目を背け、シラを切り通そうとする。
その浅ましい態度を見て、美央は心底呆れた。
長年連れ添った夫の、こんな姿を見ることになろうとは。

「ふざけないで。認めないなら、弁護士を立てて裁判します」

そう言い放ち、美央は荷物をまとめて家を出た。
振り返ることはなかった。寛との間に、もう語るべき言葉は何一つ残されていなかった。

家を出た美央は、大学時代の友人であり、現在は弁護士として活躍している倫子に連絡を取った。
事情を説明し、不倫の証拠を基に寛相手に裁判を起こす手伝いを依頼する。

「事情はわかったわ。任せといて」

倫子は美央の話を冷静に聞き、弁護を引き受けてくれた。
裁判に向けた準備が始まった。

一方、美央に離婚を突きつけられた寛は、面子を潰されたことに加え、
和城の件で海外支社での立場が悪化したこともあり、異動願いを出して日本へ帰国した。
しかし、美央の行動を許せない寛は、仕事の傍ら美央の行動を監視するようになる。

数週間後、寛は美央がある特定のマンションに出入りしているのを見かけた。
それは、海斗の住むマンションだった。

数日後、昼間、エントランスへ出てきた海斗に声をかけた。

「おいあんた!うちの妻と不倫してるんだろ!?」

突然の問い詰めに、海斗はひどく動揺した。

初めて会う美央の夫。
そして向けられる疑惑の目。
言葉に詰まる海斗。そこへ、海斗の家に家事代行の仕事をするためにやってきた美央が、エントランスに現れた。


三人が鉢合わせるという、まさに最悪のタイミングだった。

「海斗くん…」

美央の声が、僅かに震える。

「美央さん…」

海斗もまた、困惑した表情で美央を見つめた。

横に立っていた寛に気づいた美央は、咄嗟に戦闘的な態度に切り替える。

「ちょっと!なんであんたがここにいるのよ!?」

いきなり現れた美央に、寛も動揺するがすぐに戦闘態勢を整えた。

「お前が、こいつの部屋に何度も出入りしてるのを見たからだよ!」寛は美央を指さして怒鳴る。

美央は冷静を装って答えた。

「当たり前でしょ!?ここのお家に、家事代行の仕事に来ているんだから!ねぇ、海斗さん?」

話を振られた海斗は、まだ動揺していたが、美央の意図を察した。

「あ、あぁ・・・。はい、そうです。美央さんには、いつも、家事代行をお願いしているんです」

疑いの目を向ける寛に、海斗はさらに畳み掛けた。

「嘘だと思うなら、代行会社に電話してみてください。私の担当者の連絡先を渡しますから」

海斗は名刺を取り出し、家事代行サービスの連絡先が書かれた部分を寛に見せた。


どうしても信用ならない寛は、その場で海斗が渡した連絡先に電話をかけた。
確認を取ると、確かに美央が家事代行サービスのスタッフとして海斗の家に派遣されているという回答だった。

(これでは、一旦は引き下がるしかないか・・・。)

寛は苦虫を嚙み潰した表情で、その場を後にした。


しかし、美央が海斗を見つめる目や言葉遣いに、寛は僅かな違和感を覚えていた。
美央と海斗の関係への疑念は、完全に晴れたわけではなかった。

その場を後にし、仕事へ向かった海斗は、休憩時間を見計らって美央に電話をかけた。

「美央さん、ご主人の件、大丈夫だった?」

海斗の声には、心配の色が滲んでいた。

「ごめんなさい、海斗くん。迷惑かけちゃって…」

美央は申し訳なさそうに答えた。

「迷惑だなんて・・・。それより、美央さんの事が心配だよ・・・」

海斗の優しい言葉が、美央の心に染みた。

「私は平気。ありがとう」

海斗の気遣いがとても嬉しかった。

「もし、疑われているなら、寂しいけれど、しばらく距離を置こうか・・・?」

しかし、美央は首を横に振った。

「大丈夫。何とかするから、今まで通り通わせて」

彼女は海斗との関係を、どうしても手放したくなかった。

電話を切った美央は、すぐに倫子に電話をかけた。

「倫子、お願いがあるの・・・」

美央は倫子に、夫が自分のクライアント先に押しかけて困っている状況を説明し、今後クライアント先に行かないように寛に通達を出して欲しいと依頼した。


倫子から寛の弁護士へ、海斗の家への立ち入りを禁じる通達が出された。
それ以降、寛が海斗の部屋を訪れることはなくなった。


美央と海斗の、危うい日常は、辛うじて守られたのだった。

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